ナミキ・キヨタカ インタビュー

レビューブログを執筆してきたギャラリーメグリストによる初個展

In インタビュー by Atsuko Nomura 2017-10-15

京都を中心に日々現代美術ギャラリーを巡り、独自の視点でレビューを書かれているナミキ・キヨタカさん。これまで長年鑑賞者側であった彼は、今年初めて個展を開催し、63歳にして作家デビューすることとなった。作家としては異色の経歴を持つナミキさんに、レビューブログを書き始めた経緯や、作品を制作し発表する機会を得て抱いた思いについて、お話を伺った。

 
グラフィックデザイナーから「ギャラリーメグリスト」へ

–––今回は初めての個展開催ということですが、それ以前の経歴も含めてお話を伺えればと思っています。ナミキさんは、京都では「日々ギャラリーを巡って膨大な数のレビューを書いている人」ということでよく知られていらっしゃいますが、どういった背景があってギャラリー巡りを始められたのかをまず伺えますでしょうか。

ナミキ グラフィックデザイナーとして働いていた30年くらいの間に、やはり嫌な汗をかくことがたくさんあったんですね。クライアントに出したデザインが通らない。そのうちにどんどんクオリティがひどくなっていく。それで「オッケー!」って言われて、それが印刷されて世の中に出て行く。それでかなりストレスがたまってたんですね。そのときのガス抜きというか、アイデアに詰まったときにギャラリーに行って、そこで作品や作家と出会う。それを繰り返しているうちに、習慣化してしまって。今、デザイナーをやめて6年になりますけど、日常のかなりの部分を占めてます。

–––ギャラリーをまわり始めてからどのくらいですか?

ナミキ ブログは2009年から書き始めました。その前からギャラリーはかなりまわってたんですけど、文章にするっていうのを思いつかなかった。

–––ブログで書くことには、どういう狙いがあったんですか?

ナミキ やはり、作家さんに会って話を聞きたいと思った。僕のギャラリーまわりの根底にあるのは、「ジェラシー」(笑)。なんでこんなことできるの、なんでこんなこと考えられるのっていう。だから、羨ましくてしょうがなくて。ずっとその羨ましさを持ちつつ、それを自分のモチベーションに変えるんです。
 若い作家さんの個展に行って、次にこの人の名前を見ることがあったら行こうって思える人に出会う。それが、僕がギャラリーの展覧会に行く目的のひとつでもあります。応援してあげたい。僕が情報として出してあげて、読んだ人がどこかに引っかかったら実物を見に行ってもらって、そうやって何か手助けになったらいいなって。
 その後、母の最期を看取ったのをきっかけに、生身の人を相手にする仕事をしようと思って、介護の仕事に転職しました。グラフィックデザインとはまったく真逆の世界に入って、ギャラリーを見てまわる頻度はさらに高くなって、休みはほぼ家にいない。休日はロスがないように目当ての展覧会情報を全部書き出し、スケジュールを綿密に計画してからまわります。

 
ギャラリーで作品と対峙するときに思うこと

ナミキ 僕、全然知らないんですよ、美術史も、版画も、油絵も、陶芸も。じゃあどうやって見ているかというと、例えば、作品をじっと見つめているうちに見えてくる、作品に反射している風景を見たり、作品を自分の人生観と照らし合わせて考え事をしたり。作品を評価するんじゃなくて、自分と作品の関係性をつくっていこうって。僕、そういう見方しかできないんです。じゃないと僕は知識がないので。

–––それはむしろすごく、生々しい体験だと思います。やっぱり知識が入ってくると、目の前の作品を見ながら、頭では別のことを考えていたりすることがあるんじゃないでしょうか。作品と自分の間でダイレクトなやりとりがそこで起こっていることのほうが、生々しい感じがします。

ナミキ そうですね。作品はまた、購入して自分の手元の壁に飾るということで、まったく違う意味合いを持ちます。展示されたときには、作品と作品の行間ができていて、作品同士の関係性とか、作品と自分の関係性とかをそこで推し量ってますよね。1点だけ買って飾ろうとすると、その関係が絶たれるんですね。住空間という新たな場所に置かれるので、言ってみれば新しい関係が築かれる。もしかしたらそのときがっかりするかもしれない。それは、とても怖いですね。ひとつを持ち帰るのは。

–––若い作家さんの個展を中心に、ギャラリーでの展覧会をたくさん見ていらっしゃる中で、最近の傾向ってありますか。

ナミキ やっぱり、「よくデザインされている」。どんな分野であっても、作品をどう見せるかっていうプレゼンテーションがよくできている。コンセプトも構成も練りに練ってあって、僕はびっくりするんですけれども、考え抜かれていて、やっつけじゃないっていうのはすごくよくわかるんですけど、なんだろう、この、セミプロ化っていうのかな……。

–––隙のなさ、というのでしょうか。

ナミキ そう、高精度で戦略的な展示をしたいっていう。もっと何か、どかーん!とした作品があってほしいですね。展示空間が、作品があることでこんなに変化するんだ、っていう驚きに、現代美術を見ることの魅力があると思うので。何か上手に収めようというよりも……。今はみんな、慎重ですよね。

 
錠剤の包装シートという素材を使って

–––そしてナミキさんは昨年、京都藝際交流協会(JARFO)が主催した「Non Conquest」という公募展において、作家として初めて作品を発表されました。このときの作品が圧倒的な来場者票を集め、今回の個展の権利を獲得されましたね。

ナミキ 「Non Conquest」のステイトメントでは、「自分は施設にいて、決まった時間に薬を出す、ということをリピートしている」ということを書いたんですけど、コンセプトよりも、自分の生活と地続きである薬という素材を使って、ゴテゴテにしてやろうというつもりで、最初はつくりました。錠剤のPTP包装シートを使うことは、見た瞬間にひらめいたんです。いつか形になるんじゃないかと思って、作品を手掛けるまで3年間集め続けました。

 
ナミキ このブルーの作品は、ありがたいことに介護施設に飾ってもらってるんです。もしかしたら断られるかもしれないと思ったんです、こういうものは。ダメな人がいるかもしれないと思って。でも施設はとても理解があって。薬の包装の収集には看護師の方が協力してくれて、僕にくれるんです。薬の包装シートって、産業廃棄物なんです。だから、もらってもらえると薬局も助かるそうで。

–––入居者の方はどのように見ていらっしゃいますか?

ナミキ 入居者はほとんどがターミナル(終末期)の方で、明日の朝も知れないという方が半数以上なので、反応はあまりないです。ショートステイの方は携帯で写真撮ってくれて「私の薬がこんなふうに作品になってるの?」って。

–––ご自身がつくる側になってみて、気づいたことなどありましたか?

ナミキ ありましたね。一番は……今までよく人のことを書けたなっていう(笑)。よくそんなこと言えたものだなって(笑)。
 それから、締め切りとかもそうですね。僕はフルタイムワークで勤務しながらこの個展のための制作をしてきましたが、与えられた自分の仕事は仕事としてきちっとしておかないと、これもできないと思っているので。夜勤明けであっても、それはそれですし、そっちのほうがあってこそギアが入ったり。実は今もずっと、寝不足なんです。寝ている間、夜中にどんどんアイデアがひらめいて。次の日仕事が早くても、起き出して、ギラギラしながら制作して。それが僕は楽しいですね。

                  * *

見ること、書くこと、つくること。いずれにおいても闊達な創造性を発揮しつつ、あくまでも日々の営みから乖離せずに、生身のやりとりを大切にしているナミキさん。彼のレビューブログには、下記のような印象的な言葉がつづられている。

 

いつも思うのは、ギャラリーの扉を開けて
足を踏み入れて、言葉につまる、その瞬間が好きだ。
そのために行くようなものである。
決まって、そんな出会いには「明快さ」と「突抜感」がみなぎっている。

 

今回の初個展では、通りがかりの来場者がギャラリーに入って言葉につまる瞬間をまさに目撃した。キラキラしたデコラティブな画面が、実は大量の薬の包装であると気づいたときの、驚きと感動。余暇という範疇を超えてギャラリー巡りをしてきたナミキ・キヨタカさんの表現には、彼自身の言葉が予告するかのように、明快さと突抜感が充満していた。

 

【ナミキ・キヨタカさん レビューブログ】
シッタカブリアンの午睡
 
【個展開催情報】
「HAPPY ? 〜 ナミキ・キヨタカ 個展」
会期:2017年10月3日(水) – 10月12日(木)
会場:ART FORUM JARFO 〒605-0068 京都市東山区稲荷町北組567-31

Atsuko Nomura

Atsuko Nomura . 野村敦子|1983年奈良県生まれ。京都大学大学院人間・環境学研究科修士課程修了。現代美術に関する企画、執筆、翻訳等を行っている。美術作品と美術家がどのように価値付けられ、美術史がどのように形成されてゆくのか、また現代美術に関わる経済システムには今後どのような可能性があるのかなど、美術と経済の問題について関心を抱いている。 ≫ 他の記事

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