西條 茜「folly」|アートスペース虹

盲信への戒め —「失われた脳」をつくるプロジェクト

In トップ記事小 フォトレポート by Atsuko Nomura 2017-11-24


会場に入ると、脳のかたちをした重量感のある岩が来場者を迎える。よく見るとそれは、小さな石の集積であり、溶解したもの、ひび割れたもの、一部に金彩を施されたものなどが、ぎっしりと並んだ大きな塊であることがわかる。考古学、歴史学、鉱物学的な視点からのリサーチやフィールドワークをベースにし、やきものや鉱物を素材とした作品を発表している、西條茜さんの作品である。

 

 
オランダでの滞在制作
 
西條さんは今年の夏、オランダのユーロピアン・セラミック・ワークセンターにて滞在制作を行った。今回の個展では、この滞在中に制作した作品を展示している。本展の中心となる作品《ルッベルトの頭》は、15世紀オランダの画家ヒエロニムス・ボスの絵画《寓者の石の切除》から着想を得て制作されたという。

 

 
ヒエロニムス・ボスの《寓者の石の切除》では、医者になりすました男が「あなたの頭のなかには石がある。石を取り除かないと愚か者になる」と騙して患者の頭から石を取り除くという、いかさまの手術をしている場面が描かれている。この主題からは一般に「盲信への戒め」という寓意を読み取ることができる。

 
「医学と宗教の関係性については、以前から興味を抱いていました。それで、医学と宗教それぞれについて特殊な歴史を持つオランダでの滞在を希望したというのもあります。実際にこの手術は、16世紀のオランダで行われていたそうです。私は石を作品によく使うのですが、このボスの作品に描かれている盲信性は自分にも当てはまるところがあると思って、今回のテーマを“folly”(愚行)としました。
 
 自分自身、盲信的になりがちなところがあって、自分の作っているものって嘘っぽいなって思ってる時期がありました。でも私のやっているやきものというのは、窯に入れてしまったらもう結果を待つだけだし、思い通りにいかないこともあります。だから客観的になる瞬間をおのずと与えられるというか、それが盲信的な自分を戒める瞬間でもあると思っています」

 
オランダの森や海から石を集め、脳をイメージして成形し、まるごと窯に入れて一気に焼成したというこの作品。奥行き160cmの巨大な脳をつくるために石を採掘する作業は、「失われた脳をつくる」ようなプロジェクトであったそうだ。

 
「オランダで滞在していたスタジオから、毎日リヤカーをひいて森に行って石を拾っていたのですが、その様子を隣で制作してた友人のアーティストが見ていて、“すごくおもしろいから映像にしなよ”って言ってくれて。それで今回の展示では、スタジオの窓から自分が石を運んでいる様子を撮影した映像を流しています」

 

 
予期しなかった抜歯体験
 
また、この滞在制作中に西條さんは、現地の歯科で「歯を抜く必要がある」と診断されて抜歯治療を受けた。しかし後日、滞在中の作家で元歯科医だった人に歯を見せたところ、「これは抜かなくてよかった歯だ」と言われたそうだ。期せずして彼の地で手術を経験することになった西條さんだが、このときに抜いた歯とレントゲン写真を作品の一部として今回展示している。

 
「《ルッベルトの頭》を作った後にも、頭の手術のことを調べていたんです。そうしたら、19世紀になっても、今では信じられないようなでたらめな治療が行われていたことを知って。だから、この歯を抜いたときのことのように、今の自分が信じて受けている医療も、後世になれば、“そんないかさまみたいなことやってたんだ”ってなりえると思ったんです」

 
その土地を実際に歩き、地面を手で掘って石を採掘し、そこで出会ったものや体験したことを記録しする。幾層もの次元で、西條さんはその場所と直接につながろうとしている。

 

  
鉱物や考古物に対する思いの原点
 
彼女の作品制作においては、陶芸という技法の選択より先に、幼少の頃からの「地面を掘りおこすこと」に対する思いがある。阪神淡路大震災の後、祖母の家が同じ土地に建て替えられた。当時6歳だった西條さんにはすでに庭に穴を掘る趣味があり、土の中から祖母の使っていたお茶碗やグラスの欠片を見つけたそうだ。大学に入学してからは、考古物の発掘現場のアルバイトにも参加した。採掘するという行為も魅力的だったが、土の中で時間が経過した考古物と、大学で学んだやきものの間に、視覚的な類似性を発見し、その見た目だけでなくプロセスの共通性にも注目するようになった。

 
「やきものってだいたい窯の中で1200度くらいで焼くんですけど、考古物は地面の中で時間をかけて物質が変化していきますよね。その時間とかその熱量は違うけれど、トータルしてみたらもしかしたらそれって同じなのかもしれないなって思っていて。そういう持論みたいなものがあって、ずっと作ってきています」

 

 
 
 
「私のやってることは、いかさまの手術と同じではないかと思うんです。それでも、その模倣するプロセスの中に何かを見出そうとしながら、うさんくささと、リアリティのある古いもの、その狭間を得られたらなといつも思っています」

 
物質が内包する時間に思いを馳せつつ、鉱物を焼成し、陶芸で錆や劣化を表現する西條さん。古いものに対する憧れと、自分がそれに近づこうとしてもそれはどこまでも模倣ではないかという懐疑が常にあるという。それは、芸術は自然の単なる疑似描像なのか、それともそれ以上の何かを描き出したものなのかという、古代ギリシア以来の芸術論にもつながる問題でもある。

 
静かだけど強い作品をつくりたい、と西條さんは話す。派手に主張するものではないけれど、存在として強さがあるもの、それは石が放つ魅力と同様のものである。陶芸という枠を超えて、自然の鉱物や人間の道具が過ごしてきた時間への思考を促す西條さんの作品は、きわめて個人的でありながら普遍的な問題性に支えられている。彼女は今後ますますの活躍が期待される作家のひとりとして、引き続き注目を集めることだろう。

 
         * *

なお、今回の展覧会場であるアートスペース虹は、1981年の開廊以来、新進気鋭の優れた作家を紹介し続けてきたが、今年12月末をもって惜しまれつつ閉廊する。最後の展覧会は、総集的なグループ展が予定されているとのこと。この京都画廊史に残るギャラリーが果たした役割に敬意を表するとともに、次世代に託されたアートシーンのあり方をめぐる課題のバトンをいかにつなげていくことができるか、今こそ私たちに問われていると感じる。

 
【開催情報】
西條 茜「folly」
会期:2017年11月21日(火) – 11月26日(日) 11:00-19:00(最終日 18:00)
会場:アートスペース虹 〒605-0041 京都市東山区三条通神宮道東入ル東町247
http://www.art-space-niji.com/

 

Atsuko Nomura

Atsuko Nomura . 野村敦子|1983年奈良県生まれ。京都大学大学院人間・環境学研究科修士課程修了。現代美術に関する企画、執筆、翻訳等を行っている。美術作品と美術家がどのように価値付けられ、美術史がどのように形成されてゆくのか、また現代美術に関わる経済システムには今後どのような可能性があるのかなど、美術と経済の問題について関心を抱いている。 ≫ 他の記事

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