バーニングマンレポート

非日常的な実験都市、砂漠の祝祭空間

In 特集記事 by Reiji Isoi 2018-01-28

ネバダ州の砂漠で夏の終わりに開催されるバーニングマンとは一体何なのか。

筆者が2005年に初参加して以来、振り返ると10数年に渡り10回も足を運んでいたイベントの体験をフォトレポートしてみよう。

まず、2005年に初めてバーニングマンに行ったきっかけは面白い写真が撮れそうだったからで、被写体としてバーニングマンに魅力を感じた。街から離れた場所でクレイジーなパーティー愛好家が集まる、奇抜なアートと野外音楽がミックスした巨大なイベントという漠然としたイメージを持っていた。実際に行ってみると思った以上に、いくら撮っても撮りつくせないフォトジェニックな光景が溢れる砂漠の街だった。また音楽フェスの側面はバーニングマン全体を構成する一要素であり、1度参加しただけでは到底その全貌を把握できない程の巨大なスケールで繰り広げられる総合イベントであることがわかった。

バーニングマンが開催されるのはネバダ州のブラックロック砂漠というエリアで、サンフランシスコからリノを経由し400マイル以上離れた僻地にある。普段は何もない広大な砂漠に毎年1週間現れ多様なスタイルの参加者と表現を包み込む街は、通称ブラックロックシティーと呼ばれている。

そこは、無数のアートパフォーマンス、インスタレーション、大小さまざまなワークショップ、パネルディスカッション他、文化的イベントからお祭り騒ぎ、巨大プロジェクトのための本格的なクルーから家族ぐるみのキャンプ、個人参加にいたるまで幅広く多様な人と物が織り成す街である。

バーニングマンの起源は、1986年に創始者のラリー・ハーヴェイがサンフランシスコのビーチで友人と集い、木型の人形を燃やしたのが始まりと伝えられている。80年代後半に、サンフランシスコの前衛的な芸術集団カコフォニーソサエティーのメンバーが運営に加わると、開催場所はネバダ州の荒野ブラックロックシティーに定まった。90年代にはレイブやフェスと呼ばれる野外音楽イベントが世界的なムーブメントとして勢いづくなか、バーニングマンも特異なイベントとして広く知られるよになり、その参加者と規模を拡大していった。

ちなみに、筆者が初めて参加した2005年頃には、イベント全体の参加者は3万5千人程だったのが、近年では約7万人規模に倍増している。もともと広大な砂漠地帯で開催されるバーニングマン(=ブラックロックシティー)は、クライマックスに燃やされるザ・マンと呼ばれる人型のシンボルを中心に同心円状に外に広がっており、昨年(2017年)は人口密度の増加をさほど実感しなかった。

また、バーニングマン(=ブラックロックシティー)には以下の10の原則があり、それが容易にアクセスできない砂漠地帯で開催されるこのイベントを際立たせている。

1.どんな者をも受け入れる共同体である(Radical Inclusion)

2. 与えることを喜びとする(Gifting)

3. お金もうけのことは忘れる(Decommodification)

4. 他人の力をあてにしない(Radical Self-reliance)

5 本来のあなたを表現する(Radical Self-expression)

6 隣人と協力する(Communal Effort)

7 法に従い、市民としての責任を果たす(Civic Responsibility)

8 あとを残さない(Leaving No Trace)

9 積極的に参加する(Participation)

10 「いま」を全力で生きる(Immediacy)

※参照(http://burning-japan.com//)より

英文オリジナル:https://burningman.org/culture/philosophical-center/10-principles///

バーニングマンではイベント期間中、売買行為の禁止を原則としており、その点で多くの巨大フェスやアートイベントと一線を画している。シェアリングエコノミーに関心のある人々など、社会実験の側面から興味を持たれる方も多いだろう。

バーニングマン発祥の地カリフォルニアを始めアメリカ西海岸は自由を求める人びとが集まる土地である。かつてフロンティアを追い求めて入植した人々が現代の繁栄を築くまでに培ったDIY精神が根強く、その後、ビートニク、ヒッピー文化、ハッカー文化など、カウンターカルチャーと呼ばれるムーブメントが起こった地域でもある。そうしたムーブメントの根底にある精神性が、現代のシリコンバレーに象徴されるテクノロジー産業へと受け継がれていると言われ、グーグルの創業者たちや、イーロン・マスクといったシリコンバレーの著名人たちも、過去にバーニングマンに参加している。そうしたこともバーニングマンを理解するひとつの鍵となりそうだ。現代のシリコンバレーに受け継がれるカリフォルニアン・イデオロギーとも呼ばれる独自の理念や精神性が、バーニングマン(=ブラックロックシティー)を形成する基盤にも影響を及ぼしているのではないだろうか。他方、純粋にパーティーの快楽、根源的な遊びの精神を求めて集う人々、数奇者も世界中から大勢集う。バーニングマンは開拓の精神や多様性に重きを置く土壌で発生し、さまざまな人々の創造力が混ざりながら現在も発展を続ける、実験都市であり祝祭空間ともいえる。

以前、バーニングマンに同行したことのある現代美術家の浜崎健さんはバーニングマンを街だと形容していた。1)「バーニングマンって『なんとかフェスティバルみたいな感じですか』と聞かれるんですけど、僕はやっぱり『街』だと思ってるんです。たとえば東京とは何かと聞かれたら、クラブカルチャーにもファッションにもクローズアップすることもできる。何にでもフォーカスを当てることができるじゃないですか。僕なりの解釈だと、バーニングマンってお金を使わない架空の街に一週間、住人になることだってのが一番しっくりきます」

浜崎健さんは90年代後半からバーニングマンに参加し、レッドティーセレモニーというパフォーマンスをほぼ毎年バーニングマンで、変わらないスタイルで開催し続けている。

茶道を現代的に解釈したアートパフォーマンス「レッドティーセレモニー – You Are GOD -」は屋外での茶会、野点を独自に解釈し、ミニマルな作法、様式で執り行われるもので、開催される場所や参加者ひとりひとりの体験がパフォーマンス作品の要素となる。ちなみに、バーニングマンは毎年異なるテーマを掲げており、2017年のテーマは’Radical Ritual(革新的な儀礼)’というものだったが、浜崎さんのレッドティーセレモニーはまさにそのテーマを体現していたように思う。

バーニングマンは商業主義には否定的であり、通常のイベントで見られるスポンサーや企業のロゴを目にすることはない。一方、大規模なステージやアートインスタレーションのなかには莫大なコストが投下されているものも多い。非商業主義を名言するバーニングマンにおいてそれらを展示・披露するために採算度外視で運営されているのたろう。日頃は資本主義のもと合理的な経済活動を行う先端的な企業や組織、それらに関わる人々が、純粋に遊びを目的とした、見返りをもとめない活動を行っている様子が垣間見えるのもバーニングマンならではのことだ。バーニングマンで目にするアート作品は、人目をひく巨大な建造物から誰でもアイデア次第で実行できる個人的な活動、ミニマルなものやコンセプチュアルなものまでスケールの大小は様々だが、砂漠という過酷な環境に表現を持ち込み披露する、人々のエネルギーにはただただ圧倒される。

バーニングマンには、最先端技術と芸術が融合した高度な表現もあれば、作品なのかどうか定かではない参加者の自由な表現が混在している。そこでは有名であることや権威などもフラット化される。慣習に縛られた物の見方や考え方から自由になり、真剣にふざけて楽しむ姿勢が賞賛され、馬鹿であればあるほど敬意を受けるようなカルチャーがそこにはある。特異な環境下に、普段の感覚を一旦リセットしてオープンな気持ちで適応できれば、参加者が自分自身を省みる機会にもなる。

バーニングマンにまつわる個人的なエピソードとして、数年前に参加したとき、滞在していたキャンプ場所から近所にあるトイレに出かけたつもりが、めくるめく繰り広げられるイベントや奇異な作品の数々、現実感のない嘘みたいな光景に魅了されるがままに時間も忘れてさまよい続け、気づけば日も暮れ、自分のいる場所がよくわからなくなるという体験をした。「もしかして迷子!?早く戻らなければ」と気付くと同時に、物理的にも心理的にも日常からはるか遠いところで得られた開放感は新鮮な感覚だった。迷子の気持ちを感じたのはいつぶりだろうか。日常生活では、スマホひとつで目的地へのルートを簡単に得られるし、なにより大の大人が道に迷う状況はそうそうなく許されもしない。バーニングマンという、想像を超える巨大なスケールの祝祭空間ならではの非日常体験のひとつとして印象に残っている。

「一体これがアートなの!?」と、思わず、芸術とそうでないものとの境界を考えさせられることも多い。芸術作品が、表現物と鑑賞者との相互作用により、鑑賞者に精神的・感覚的な変動を与えるものだとすれば、バーニングマン=ブラックロックシティー自体が、参加者が全身で没入できる巨大な万華鏡のような作品といえるのではないだろうか?興味を持たれた方はぜひチェックしてみてほしい。

*これまでにバーニングマンに同行したり、現地で体験をシェアした人々の記事:

https://ameblo.jp/hiza-fes/entry-11615327851.html

http://www.magarisugi.net/travel/post-1050//

https://ichirokuwahara.com/blog/2017/9/7

バーニングマンのチケット情報は以下のサイトをご参照ください。

http://www.burninja.info/scalper/

1)引用文献”まがり著、『バーニングマン・コンプリートガイドブック』 出版社: 造形社、122−123頁;”

参考文献:バーニングマン・コンプリートガイドブック 出版社: 造形社; 不定版 (2014/6/28)

Reiji Isoi

Reiji Isoi . 1978年生まれ。00年代前半より音楽業界を中心に写真の撮影活動を始め、音楽・美術・文芸誌に写真・インタビュー記事等を寄稿するほか、映像撮影・制作の仕事に携わる。仲間と突発的に結成した『宇宙メガネ』からも不定期に発信することがある。各地で起こる皆既日食、米国のバーニングマン、インドのクンブメーラ祭、古代遺跡でのイベントなど、津々浦々で出会う作品や表現者たちとの交流を通じ、森羅万象の片影を捉えようとカメラを携え日々撮り続けている。 http://razyisoi.jp/ ≫ 他の記事

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