日本建築や庭園など、さまざまな視点から日本の美を紹介する、シリーズ『日本的なるもの』第2回目は「名勝無鄰菴庭園」(以下「無鄰菴」とする)を取材してきた。
無鄰菴は、明治・大正時代の政治家、山縣有朋(やまがたありとも 1838-1922)の別邸である。京都市の岡崎・南禅寺界隈における別荘群の先駆けとして、明治27年(1894)から29年(1896)にかけて造営された。その後、昭和26年には、国の名勝庭園に指定されている。
施主・山縣有朋は、里山の景色や、野趣あふれる自然の風景を好んだと伝えられている。東山を借景とした開放的な庭園には、琵琶湖疏水から水を取り入れ、自然な川の流れを表している。自然に生えた野草を活かした育成管理がなされており、現在も山縣有朋の感性は引き継がれている。
庭を手掛けたのは、近代日本庭園の先駆者、“植治”こと、七代目小川治兵衛(おがわじへえ 1860-1933)である。植治の代表作として、平安神宮神苑(京都市左京区)や円山公園(京都市東山区)が挙げられる。山縣有朋の指示に基づいてつくられた無鄰菴もその一つである。
そんな名勝無鄰菴で、日本庭園の手入れを学ぶ連続講座が開講されている。『庭師と学ぶフォスタリングスタディーズ』と題した本講座は、無鄰菴担当庭師と共に実演を交えながら、庭師の技術や心構えを学ぶことができる。全5回の講座は、「剪定」「苔」「松」「竹」「野花」と毎回異なるテーマが設けられている。一回のみ参加することも、続けて受講することも可能である。初回は、定員を超える22人の参加者が集った。
講座の前半は、室内で実践を交えたレクチャーを受ける。5人1組の各テーブルには、サツキの苗株が用意されている。このサツキを低木として、実際に剪定を体験する。まずは、庭師が手本に実演をする。ハサミを枝に入れる手つきは大胆かつ迷いがなく、ものの10分で仕上げてしまった。小さな苗株が一本の木へと、いつの間にかスケールが変化して見えるから不思議である。
その後、切る枝の見極め方や、ハサミの入れ方などの技術的な指導を受けて、参加者も実践に入る。5人のチームメンバーと話し合いをしながら、交互にハサミを入れていく。慎重に吟味をして一本ずつ枝を落とすチームもあれば、感覚のままに思い切った剪定をするチームもあり、会場は和やかな空気であった。作業途中にも、庭師がアドバイスをしてまわり、最後は各チームごとに講評を行い、前半の1時間半が終了した。
後半は庭園に出て、実際に剪定するところを見学する。施主・山縣有朋は、里山の景色や、野趣あふれる自然の風景を好んだと伝えられている。無鄰菴では、山縣有朋の感性や美意識を尊重しながら、現代に相応しい景色をつくるように日々手入れをしている。木が元々持っている樹形を活かし、また光の差し込み方や庭全体の空間を読み、丁寧に剪定をしていく。庭師の技術や目線を知った上でみる庭園は、普段とは違う角度から楽しめたのではないだろうか。
無鄰菴では、本講座の他にも、庭園を交差点にした日本文化の面白みを発信することを目的にした『無鄰菴パート ナーズ講座』を実施している。これまでにも、若手文化人による日本茶や能楽などをテーマにした講座が開かれてきた。一度きりの観光ではなく、庭園で文化を楽しみ、何回も集まって交流が生まれる、オープンな空間を目指している。そうして企画された様々なプログラムの根底には、「山縣有朋が愛でていた日常」を体感できる場所にしたいという思いがあるという。
講座の詳細・申し込みは、無鄰菴の公式ホームページをご覧ください。
『庭師と学ぶフォスタリングスタディーズ』
VOL.5 3/24「野花」名勝庭園の管理を野花育成の事例から総合的に考えます。
詳しくは無鄰菴のサイトをご覧ください。
https://murin-an.jp/
【施設概要】
無鄰菴
開場時間:4-6月8時半-18時 7-8月7時半-18時 9‐10月8時半-18時 11月7時半‐17時 12‐3月8 時
半‐17時
休場日:12月29日から12月31日までの3日間
見学料:お一人様410円※小学生未満は無料
場所:〒606-8437京都府京都市左京区南禅寺草川町31番地
アクセス:
・京都市営地下鉄地下鉄東西線:蹴上駅から徒歩約7分
・京都市バス:「神宮道」または「岡崎公園美術館
・平安神宮前」下車、徒歩約10分・タクシー:JR京都駅より訳20分(駐車所はございません)
電話・FAX:075-771-3909
公式HP
詳細はこちらhttps://murin-an.jp/