サプール

ファッションで平和を訴える男たち

In KABからのお知らせ 特集記事 by KAB Interns 2018-03-30

変わるモード界
ルイ・ヴィトンが163年の歴史の中で初めてコレクションのファーストルックに黒人モデルを起用したり、2017年に老舗ファッション誌「ヴォーグ(VOGUE)」のイギリス版編集長にゲイの黒人男性が就任するなど、長らくアングロサクソン系の人々を中心としていたモード界が少しずつ変わろうとしています。

JUNYA WATANABE COMME des GARÇONS MAN の2015FWコレクションをご覧になったことのある方はいらっしゃるでしょうか?「本気のフォーマル」をテーマに発表された同コレクションはアフリカ、コンゴで生まれたサプールから着想を得たものでした。
地球の裏側で生まれたカルチャー、サプール。彼らの活動の背景には平和を願う強い思いがあります。


 

サプールとは
平均月給約3万円。そんな貧しさの中で年収の平均4割を海外の高級ブランド服に使う、”世界一お洒落な男たち”と呼ばれる集団がいます。彼らは普段街の人たちと変わらない服装で過ごしていますが、週末になると集まってハイブランドの高級スーツに身を包み町を闊歩します。コーディネートに3色以上使ってはいけないという独自のルールを持ち、その色の組み合わせで自分自身を表現するのです。そんな彼らの活動はサップと呼ばれてます。

サプールの歴史
サプールの第一人者とされるのは1920年代から30年代にかけてパリに住んでいた反植民地主義者のアンドレ・マツワだと言われています。
フランスから戻ったアンドレがパリの紳士の格好をしていたことで、コンゴ人のパリへの憧れが生まれました(※1)。こうしてコンゴ共和国のブラザビルで生まれたサプールは、川を挟んだ対岸のコンゴ民主共和国キンシャサに広がりました。その後1960年代前後のコンゴ内戦期の混乱によってサプールは一時廃れましたが、ミュージシャンのパパ・ウェンバの登場によって再興します。彼が海外ブランドに身をつつみステージに登る姿を見て若者たちは彼を真似ました(※2)。こうして再びサプールが復活したのです。

「平和の象徴」としてのサプール

コンゴ共和国、コンゴ民主共和国はともにこれまで幾度も内戦、紛争を繰り返してきました。
特にコンゴ民主共和国は、1971年から1997年まで、モブツ・セセ・セコによって支配された「ザイール」という国でした。彼によって進められた「ザイール化政策」によって、西洋的なスーツやネクタイを着用することを禁止された国民は、アフリカの伝統的な衣服を身に着けることを強制されました。
その際に、革靴を履いて抵抗したのがサプールです(※3)。権力に屈しない姿勢は、人々から平和の象徴として称えられるようになります。ただおしゃれを楽しんでいるように見える彼らの活動の背景には、コンゴ民主共和国に住む人々の特別な平和への思いがあります。今でもサプールは、町の誇りとして人々に敬われています。

最後に…
サプールがハイブランドのスーツに身を包む姿はフランスをはじめとするヨーロッパへの強い憧れの体現であると考えていました。しかし、彼らは自分たちのルールに則って洋服を着ることで新しい文化を創り出していたのです。サプール歴46年、大サプールと慕われるムイエンゴ・ダニエルはインタビューの中で「サプールの活動は、世の中が平和だからこそできることだ」と語っています 。サップは植民地、そして激しい内戦を経験した国だからこそ生まれた社会的運動であり、平和を願う彼らの抗議活動なのです。

参考資料
※1 : Mark Tutton (2012) “Dedicated followers of fashion: Congo’s designer dandies”
※2 : 白石顕二『アフリカ音楽の想像力』(勁草書房、1993年), pp115-116
※3 : Porter, D. 2010. Fashioning A Discourse of Elegance and Politics: The Historical Roots of The Sapeur Movement, 1884-1980, p19

【あとがき】
日本という平和な国に住む私たちには、今なお続く戦争や紛争による彼らの苦しみを完全に理解することはできないでしょう。しかし、所得格差の拡大、政治家のスキャンダル、国際社会における戦略的な駆け引きなど、私たちの国にも多くの社会問題が存在し、学生によるデモ活動なども話題になりました。そんな社会に対する訴えをサプールのようにファッションで表現できたらどんなに良いかと考えてしまいます。彼らはファッションがただの飾りではなく、立派な表現ツールの一つであると教えてくれました。
「社会に対して」などという大それたことでなくとも、何か伝えたい思いや意志を示したい時は自分のクローゼットを開けてみようと思います。

<KABインターン>
松本 奈津美:現代美術を専攻し、サプールについて研究中の大学生。ファッションが好き。


[インターンプロジェクト]
本企画はKansai Art Beat(以下略KAB)において、将来の関西のアートシーンを担う人材育成を目的とするインターンプロジェクトの一環です。インターンは六ヶ月の期間中にプロジェクトを企画し、KABのメディアを通して発信しています。
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