横山裕一の作品は、一度見たら忘れられないインパクトがある。兵庫県立美術館で2014年11月9日まで開催中の横山裕一展「これがそれだがふれてみよ」は、単なる展覧会ではなく、視覚障害のある方にも来ていただきたい、という主旨のプログラム。彫刻を触るとかインスタレーションを体感するでもない今回の展覧会で、横山の「ネオ漫画」は本領発揮できるのだろうか?
—今回の横山裕一展「これがそれだがふれてみよ」は、兵庫県立美術館が視覚障害のある方にも来ていただきたい、と1989年から開いている小企画「美術の中のかたち-手で見る造形」という枠です。横山さんが最初にこの企画を聞いたとき、どう思われましたか?
正直困りました。「目が見えない方向け」と言われると、美術というより福祉のような、僕にとって難しいことをしなくてはいけないのかと思ったからです。でも下見で美術館へ来て、担当学芸員の小林公さんからこれまでのプログラムのことを聞いたり、あわせて展示する館所蔵の彫刻作品を選んでいると、ごく自然に内容が決まっていきました。例えばジム・ダインの作品が扇風機をモチーフにしていることから、実際に扇風機も置いたらどうだろう、扇風機は風だけでなく音も出るね、みたいな感じで。
—この展示は壁5面をつかって、「マンガの1コマを切りぬいた」ような平面がドン!と貼られています。
本来マンガは本で見せるものですが、展覧会は空間で見せるもの。この展覧会場にこのサイズは、圧迫感を感じてもらいたかったので理想的です。それに今回は、館所蔵の彫刻作品をあわせて展示するということで、それなりの展示空間になったと思いますし(笑)、僕の作品のモチーフとして登場もしています。
—会場では、ボランティアガイドさんが作品説明をしてくださるそうですね。
分かりやすい絵と言っても、誤読はあるでしょうし、説明に差が出てくるのはしょうがないでしょう。美術は正解がないものなので、僕は別に気にしません。むしろあまりまじめにとらえないでほしいですね。会場も自由に見てまわって構いません。
—点字の配布資料も用意されていたり、横山さんのキャプションもユニークだったり、細部もこだわってますよね。
僕は毎日日記をつけているように、文章を書くことも好きなんです。人がまくしたてるようなイメージで、今回のキャプションは書きました。それとこの展覧会オリジナルのグッズもつくりました。展示作品に登場するキャラクターや擬態語をつかった、ポストカードと缶バッジです。ぜひお土産にどうぞ。
—これまで関西で発表をなさったことはありますか。
京都のギャラリーで展覧会をしたり、アートイベントに参加したり、いくつかの大学で講義をしたこともあります。大阪で2011年にあった、鉄道芸術祭vol.1「西野トラベラーズ―行き先はどこだ?―」にも出品したことがあります。兵庫県は初めてですが、友達が多く住んでいます。彼らと淡路島に行ったことがあって、宿にたどりつけなくて砂浜に野宿をした思い出がありますね、30歳を超えてたのに(笑)。
—横山さんにとって「美術」とは何でしょうか。
「人間の生きる希望」ですね。僕はマンガも描いていますが、他のマンガ家は、読者の努力を要求しないようなエンターテインメント。だから大勢の人が楽しむことができるし、マンガ本は売れる、と思っています。でも僕は違って、どちらかというと仏教の修行のようなものです。がらんとした美術館で昔の作品を見て、その楽しみを知る。そういうものが僕にとっての「美術」です。
写真撮影:藤田千彩