写真家・石川竜一インタビュー

写真家石川竜一の「CAMP」展、「adrenamix」展が、大阪の2つの会場で同時開催中。

poster for Ryuichi Ishikawa “Adrenamix”

石川竜一「adrenamix」

大阪市中央区エリアにある
Pulpにて
このイベントは終了しました。 - (2016-06-04 - 2016-06-12)

poster for Ryuichi Ishikawa “Camp”

石川竜一「CAMP」

大阪府(その他)エリアにある
PINEBROOKLYNにて
このイベントは終了しました。 - (2016-06-04 - 2016-06-11)

In インタビュー by Reiji Isoi 2016-06-08

最小限の装備だけを持ち、食料は現地で調達する「サバイバル登山」に挑戦し、大自然の中で撮影を敢行した「CAMP」展、20代半ばの頃の作品で構成された「adrenamix」展が、大阪の2つの会場で同時開催中の、写真家石川竜一さんにお話を伺いました。

 ー 写真を始める前にはボクシングをされていたんですね?

気の弱い子供だったのを親が心配して、こいつ中学生になったらやられるぞということで、格闘技をすすめられたんです。それと、小学校までサッカーをやってましたが、中学生になるとサッカー部はみんな丸刈りにしないといけないというのが嫌だったこともありました。中高の6年間にボクシングをしていました。

 ー そこから写真家に転身されるきっかけは?

高校でアマチュアの選手権大会に出たり、周りにプロの人もいたけど、そのままボクシングを続けることに先が見えなかったんです。小さい頃からずっとスポーツをしていたのは親の影響もあってのことで、本当に自分のやりたいことは何なの分からなくなっていました。とりあえず、高校が終わったらボクシングはやめようと。それで、やりたいことが見つからないままボクシングをやめたのもあって、鬱になって外に出られなかったり、人と絡めない時期がありました。それが2~3年ぐらい続いていた頃に、ふらっとひとりで散歩していて、リサイクルショップのおじさんからコンパクトカメラを買ったんですが、それが壊れていた。壊れていたことにムキになり、自分でバイトを始めてカメラを直して写真を始めました。大学を出た後に写真館で働いたこともありますが、クビになって、それで働く気がなくなり、出稼ぎなんかをして、その間に写真を撮りながら遊び歩いていました。そしたら、友達の紹介で、舞踏家のしば正龍氏を紹介されて。「写真を撮らせて欲しい」と言ったら「一緒に踊るなら撮らせるけど、踊らないなら撮らせない」というからそのまま、付き人みたいな形で、毎日通って、稽古や世話をしながら、合間に写真を撮って、月に一度舞台に出てというのを5年間ほど続けていました。今回、大阪で「CAMP」展と同時開催の「adrenamix」展の写真は、その頃に撮っていたものです。

 ー 今回、同時に2つの写真展をやろうとしたのは?

SLANTの日村さんの存在、彼の持ってきた企画が大きいですね。「adrenamix」の写真は、初期の頃、わりと昔の写真で、一番CAMPと離れたところ、ある意味対極にあるような写真です。CAMP展の写真は一番最近のものです。

 ー 「CAMP」での撮影までにキャンプやトレッキングの経験はありましたか?

全然興味がなくて。何も知らずにいきなり山に入ったんですね。以前、「絶景のポリフォニー」という写真展示を大阪でしていたときに日村さんが見に来ていて、ほぼ初対面のときに「何か一緒に面白いことやってみる?」と持ちかけられたことから「CAMP」が始まったんです。自分では、森に行ってサバイバルしながら写真を撮ることなんか全く想像もしていなくて。そこに行く理由はいろいろあったんですけど、日村さんの考えと一致していたのは「普段やっていることとは違うことをやる」ということでした。

ー ボクシングをやっていたことが、写真に役立っていると感じることは?

普段あまり意識していなかったですが、写真を撮るときに、いろいろ周りの状況を見て、次に何が起こるかというのを瞬間的に読もうとするところは似ているのかも。人の動きなんか、ここでこう動いているから次はたぶんこうなるとか、瞬間的にそういうことが起こるじゃないですか。そういうところがちょっとボクシングに似ているのかも。でも、そういうことってあまり頭では考えていなくて、反射的というか。ボクシングの場合は、パンチが飛んできたのが見えてから動いたら遅いんです。相手の微妙な動き、相手の肩がわずかに落ちたときにそれに合わせて動くとか、そういうところは撮るときの感覚にも似ているのかもしれませんね。

ー ボクシングは結果として勝ち負けの判定がすぐに出ますが、写真は撮る瞬間だけではなく、あとから撮ったものを見返して選ぶ作業も重要ですよね。

やっぱりそれが面白いですね。森に入ったときも、自分が何を撮っているかわからなかったんです。人は物事をある程度見慣れないと、そのことを消化できていないから意識もできないと思うんです。今回、サバイバル登山家の服部文祥さんと山へ入り、本当にぎりぎりの状況で、何か気になったというところでシャッターボタンを押していたという感じでした。実際、そのときは何を撮っているかわからなかったんです。今回、本当に初めて山に入ったから、雨が降ったり、水にやられて、思うように撮れなかったこともありました。後で、自分の撮った写真を選ぶときに、あのときにはこういうことを考えていたのかとか、この写真を撮ったときには自分はどう思っていたのかということを確認したり、消化していく作業をしました。撮った時点では全然消化できていなかったです。

ー 撮ることと、撮った写真を選んだり作品にまとめることは全く違う作業ですよね。

普段撮るときはできるだけ考えないようにしています。ただ面白いとか、ただ好きだとか、ただ変だと感じたとき、そういうときにできるだけ撮るようにしています。あとで撮った写真を見返していく中でそれを考えるというか、なんでこれを撮ったのか、これとこれが一緒に写っているということの意味を考えたり、どういうことをこの写真は含んでいるのかとか、そうしたことを裏付けるために、いろんな人の写真作品を見て、そのなかからヒントを得ています。やっぱり物事って、ある程度、基礎がないと伝わらないと思っていて。普通にやって面白いことや、ただやってみて、たまたまできてそれが面白いということもあるけど、なんでそれが面白いのかが分からないないかぎりは、その時点ではあまり意味がないというか。それが残って、一体何なのかあらためて考えられて、わかったときに初めて意味が出てくるものだと思います。

 ーCAMP展と写真集「CAMP」には人が全く写っていませんが、人が写っていない作品集は今回が初めて?

そうですね。普段はそこにあるものをなんでもパシャパシャ撮ってそれをまとめているんです。もちろん、山にいるときは、一緒に案内してくれた服部さんも撮ってはいましたが、作品としてまとめるとき、今までの自分の写真に通じる感覚、森の中に突然入り未知のものを撮影した写真と、「adrenamix」の写真や、今までの僕の作品との間につながっている感覚は何かということを考えながら作品にまとめた結果、「CAMP」は人が写っていない作品になりました。

 ー これまでに印象的なポートレートをたくさん撮られていますね。

人を撮ることは面白いと思っています。人にはやっぱり興味はあるし、面白いと思っています。でも、もともと人を撮るのが好きだったわけではなく、恩師である勇崎哲史氏との出会い、その方に「人撮ってみれば」と言ってもらえたときからポートレートを撮るようになりました。それもひとつの人との出会いの中から生まれた自分の変化だし、そういうことを続けているうちに、賞をもらえたりして。 そういう意味では、今までと、今回のCAMP展でやっていることにあまり違いはないんです。ポートレートを撮っているときも、自分が何を撮っていたのかよくわからなかったし、ひたすら人を撮りまくっていて、その時点では自分で何を撮っているのか、なにをやっているのかもわからなかった。わからないから撮りまくるんですよ。自分が何をやっているのかとか。そしたら自然にああいう形の作品「okinawan portraits 2010-2012」になりました。

 ー 今回の2つの写真展示「CAMP」同時開催の「adrenamix」は撮影された時期も場所も異なりますが、今の時点で石川さんのなかでのつながりはあるということですね。

はい、あります。同時に、そこから抜けたい部分もあります。「やっぱり自分ってずっとこういうことを考えたり、思ったりしてるんだ。これだけ時間が経ってるのに、自分ってやっぱり変わってないんだな」というか。「おれってやっぱ何も変わらないんだな」というところが、面白くもあり、ちょっとした安心でもあるし、同時に、「おれってくだらない人間なんだな」と思ったりもする。「こんなに何も変わらないんだ」って。そういう気持ちが、両方ある感じがします。うまく言葉にはできないですけど。

 ー 時間が経って、精神状態や年齢が変化してもコアの部分はそんなに変わらないということでしょうか。

どうやったらそれを崩せるんですかね。自分にとっての変化はいつも、外から来るものだと思っていて。もちろんそれを選ぶというか、自分のこととして引き受けるかどうかは自分の判断なんですけど、それって自分だけでどうこうすることでもないし。だから、目の前のことに自分がどういうふうに反応していくかということなんだと思う。今回の「CAMP」にしても、日村さんが企画を持ってきて、「森に入って撮って来なよ」と言われ、最初は「まじかー!?」という感じでしたが、自然とそういう状況になるというか、普通にぱしゃぱしゃ撮ってます。特別に撮るぞ、という感じでもないんです。

 ー 最後に、木村伊兵衛写真賞を受賞されたとき、とくに期待していなかったそうですが?

受賞した写真集「絶景のポリフォニー」を発表したときから、周りの人からそういうことを言われたことはあります。自分としては、もうどうでも良いと思っていました。20代前半の頃には公募展に応募もしていたりしましたが、その後半分へそが曲がったところもあり、そういうことがくだらないなと思うようになったりもして。とりあえず、10年近く、ちゃんとした仕事がなくても、遊びながら、人の手伝いとかしたり、小遣い稼ぎをしながらも、好きな写真を撮り続けられたことが、それでいいじゃないかと思えるようになってきたんです。自分の好きな写真を撮り続けられたらそれで良いんじゃないかと。自分はいつも周りに助けられていたり、いろんなところに連れて行ってもらっていると思っています。それは場所という意味だけではなく、いつも自分のなかに変化が起こるとき、人との関わりがあって、そのおかげで現在も撮り続けることができているんです。

 ー 興味深いお話をありがとうございました!今後の活動も期待しています。


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【開催概要】
石川竜一「CAMP」展 PINEBROOKLYN
会期    2016年6月11日(土) の20:00まで 土は13:00-20:00まで、水曜は休廊

出展作家  石川竜一
会場    PINEBROOKLYN
住所:〒553-0003 大阪府大阪市福島区福島1-2-35
電話 : 06-6225-7097
阪神線福島駅東改札口から徒歩3分、JR東西線新福島駅から徒歩5分、JR大阪環状線福島駅から徒歩7分
ホームページ  http://pinebrooklyn.com//

石川竜一「adrenamix」展も、Pulpにて、2016年6月12日(日) の21:00まで同時開催中。詳細は以下のURLをご覧ください。
http://www.kansaiartbeat.com/event/2016/B368

Reiji Isoi

Reiji Isoi . 1978年生まれ。00年代前半より音楽業界を中心に写真の撮影活動を始め、音楽・美術・文芸誌に写真・インタビュー記事等を寄稿するほか、映像撮影・制作の仕事に携わる。仲間と突発的に結成した『宇宙メガネ』からも不定期に発信することがある。各地で起こる皆既日食、米国のバーニングマン、インドのクンブメーラ祭、古代遺跡でのイベントなど、津々浦々で出会う作品や表現者たちとの交流を通じ、森羅万象の片影を捉えようとカメラを携え日々撮り続けている。 http://razyisoi.jp/ ≫ 他の記事

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