鳥取とアートとゆるやかな繋がり

プロジェクトスペース ことめやに滞在して

In トップ記事小 フォトレポート by Makoto Hamagami 2018-01-09

 

「鳥取といえば?」

「鳥取といえば?」 みなさんはこの質問にどう答えますか?砂丘があるとか、スターバックスが数年前までなかったとか、以前は漠然とそんなイメージが浮かんでいた私ですが、ここ数年、「鳥取のアートが面白い」という話をよく耳にするようになりました。鳥取には、面白いプロジェクトスペースやゲストハウスを運営している人たちがいて、それぞれがインディペンデントに、そしてゆるやかに繋がり合いながら、ユニークな活動を行っているという話や、鳥取大学地域学部という面白そうな学部があるという話、また、それらが協働でアートや地域にまつわるさまざまなイベントやワークショップが開催しているとか。そんな噂が気になって、今回鳥取へと行ってきました。
 
京都に住んでいる私にとって、何となく遠そうなイメージがあった鳥取。ですが調べてみると、実は京都・神戸・大阪からは直通のバスが出ていて(しかも3列シートで快適!)、所要時間も3時間前後と意外と近く、小旅行的な感覚で十分行ける場所なのです。今回は1泊2日で、鳥取市中心部に位置する「プロジェクトスペース ことめや」に滞在しました。鳥取市内の雰囲気や、ことめやに集まる人々との交流から体験した、地域とアートがゆるやかに、そして豊かに繋がる街についてレポートしたいと思います。
 


 

プロジェクトスペース ことめや

今回滞在した「ことめや」は、さまざまなイベントやワークショップが開催されている他、アーティスト・イン・レジデンスとしても活用されている場所です。もともとは旅館として使われていた建物であり、1Fの居間は、地域の人たちが集まる場所や、普段はコワーキングスペースとして開放されており、2Fの客間部分には、国内外から来たアーティストやクリエイターなどが宿泊しています。この日も、週末に鳥取市内のアートスペースでワークショップを開催するダンサーや音楽家が1Fで打ち合わせをしていたり、鳥取で滞在制作を行うアーティストグループがレジデンスとして宿泊していたり。また、地域の人々が立ち寄ったりと、様々な人が集まり、一時を共に過ごしていました。

 

 

 

ここのディレクション及び運営するのは、キュレーターの赤井あずみさん。鳥取県立博物館の学芸員として勤務するかたわら、ことめやでのイベントやワークショップを行なったり、鳥取市街地の旧横田医院を活用した「HOSPITALE PROJECT(ホスピテイル・プロジェクト)」というアートプロジェクトの企画をされるなど、パワフルで楽しいアイデアに溢れた方です。

また、ことめや周辺には、パブとホステルの機能を併せもつ「Y(ワイ) Pub&Hostel」や、鳥取市内から電車で45分ほど行ったところにあるカフェ兼ゲストハウス「たみ」などがあり、各所で面白い取り組みがなされています。それらのスペースや人々がそれぞれ独立しながらも、時には連携してイベントなどを行えるというのも、鳥取というサイズ感ならでは。数日間鳥取に滞在するなら、各施設をはしごするのも楽しいかもしれません。

 

 

ことめやで過ごす1日

この日は、1Fの共有スペースにてワークショップが開催されていました。京都で『英語教室』を主宰する池上カノさんによる、英語ワークショップ「Mapping Your Memories Throughout TOTTORI 〜鳥取わたしの記憶マップ」では、鳥取市中心部のマップの中から、”自分の心が強く動いた場所”(感動して泣いた、はらわたが煮え繰り返るほど怒った、死ぬほど恥ずかしい気持ちになった、など)を選び、その気持ちに焦点をあて、なぜそう感じたのかについて参加者それぞれが英語で表現する、という内容のもの。

「ことめや」や近くのゲストハウス「Y」のスタッフ、インターンの方たちをはじめ、鳥取大学地域学部の学生や鳥取在住のアート好きの人、留学志望のアーティストなどがワークショップに参加し、心温まるストーリーや面白いエピソードが飛び交いました。英語で話す際の緊張や気恥ずかしさは、ワークショップが進むにつれて薄れ、むしろ英語という母国語ではない言語を通してこそ、言えなかった思いを表現できたり、初めて出会う参加者同士が打ち解けあったりと、参加者を主体とした”場づくり”が展開されていたのが印象的でした。今回私が参加したワークショップでは、若い女性の参加者が多めでしたが、開催されるイベントの内容やゲストによって、幅広い世代の方が集まってくるそうです。

 

 

 

ワークショップは盛り上がり、気づけば夜の10時過ぎ。イベント解散後も引き続き、「ことめや」をはじめとする鳥取のアートシーン界隈の人々や「ことめや」に滞在する人々と1Fスペースでくつろぎながら、アートのことや街のことなど、他愛のない会話を楽しみました。このようにイベント後は、みんなでご飯を作って食べたり、お酒を飲んだりしてゆっくり過ごしたり、時にはその会話の中で「何かやりたい」、「一緒にやってみよう」と、アイデアが膨らんで物事が動き出していくこともあるそうです。赤井さんをはじめ、スペースに集う人々との話は尽きず、そのような雰囲気の中に、鳥取という地域とアートが結びついている理由があるような気がしました。そうして、ことめやでの短い滞在は終わり、翌朝、私は京都へと発ちました。

 

 

地域とともにアートがある

2000年代に入ってから、日本では芸術祭やアートプロジェクトが各地で開催され、「市民参加型アート」という側面が広く受容され、地域再生型アートイベントとしても発展してきました。海外の大物アーティストを招聘したり、若手アーティストたちの発表の機会を大幅に拡大したりと、それらは日本のアートシーンにおいても重要な役割を担ってきたと言えるでしょう。しかし一方で、美術作品どうこうよりも地元への経済効果が重視されたり、時には、地域再生や活性化、ツーリズムの促進という目的のために「アート」という言葉が濫用されているように思われるものもあり、「地域アート」には、まだまだ様々な課題があることも事実です。

そんな中で、今回滞在した「ことめや」や「HOSPITALE PROJECT」をはじめとする鳥取にあるアートは、イベント的・単発的なものや、なにかひとつの目的や目標のために始められたものではなく、鳥取という土地に住む人たちがゆるやかに繋がりながら、自分たちにとって面白いものをサスティナブルな形で展開しているもののように感じられました。ことめやに滞在し、赤井さんをはじめとする人々と対話をする中で、アートを通じて人的ネットワークや好奇心の自由なあり方、様々な視点を共有する楽しみといったことがゆっくりと大切に育てられている様子を知り、そういった取り組みが、長い目で見たときに地域もアートも続いていくことができる場所を作って行くのかもしれないと、考えさせられる部分が多々ありました。

 

 
赤井さんは、ことめやについて「友達の家に遊びに来るような感覚で来てもらえれば」とおっしゃっていました。そういう感覚でふらっと立ち寄れる場所で、なにか面白いことが生まれていき、都市部や世界中から、人が集まってくる。赤井さんたちの取り組みが生み出すそのような循環によって、鳥取は、そんなわくわくが絶えない場所になりつつあるのだと思います。みなさんもぜひ一度、鳥取を訪れてみてはいかがでしょうか?

 
 

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【施設情報】

プロジェクトスペース ことめや
鳥取県鳥取市瓦町527
http://cotomeya.weebly.com/

HOSPITALE PROJECT
鳥取県鳥取市栄町403
http://hospitale-tottori.org/

Makoto Hamagami

Makoto Hamagami . 1992年三重県生まれ。大学時代を京都で過ごし、美学芸術学及びアートマネジメントを学ぶ。その後、チェコのアートスタジオに勤務。現在は京都にて多様な背景をもつ人々と協働しながら、芸術、言語、社会とその周辺について、プロジェクト、ワークショップ等の企画・コーディネートを行っている。神戸大学大学院国際文化学研究科在籍。 ≫ 他の記事

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