蓮-清らかな東アジアのやきもの×写真家・六田知弘の眼

奥深き「蓮」のイメージに迫る-古陶磁と現代写真家の競演-

poster for As Pure as the Lotus— East Asian Ceramics and the Eyes of the Photographer Tomohiro Muda

「蓮-清らかな東アジアのやきもの×写真家・六田知弘の眼」展

大阪市北区エリアにある
大阪市立東洋陶磁美術館にて
このイベントは終了しました。 - (2014-04-12 - 2014-07-27)

In フォトレポート by Emiko Kawamura 2014-05-23

大阪・中之島エリアに位置する大阪市立東洋陶磁美術館では、『蓮-清らかな東アジアのやきもの×写真家・六田知弘の眼』が現在開催されています。本展は、当館が所蔵する中国・朝鮮などの東アジアの陶磁器コレクションのなかから選び出された蓮に関する作品と、現代写真家・六田知弘氏が撮り続けた蓮の写真を併せて展示するというユニークな試みとなっています。

古より愛され、表現され続けてきた蓮

六田知弘氏は「時」や「祈り」をテーマに活動を続け、各国の仏教遺跡や文化財・古美術品の撮影なども多く手掛けてきました。10年以上前からアジア各地で撮り続けてきたのが蓮の写真です。

本展の見どころの一つは、私たちが普段目にしている蓮の姿だけではなく、写真でしか捉えることのできないイメージを見せてくれる点にあります。たとえばモノクロ写真では、鮮やかな色彩の代わりに、かたちや背景とのコントラストを際立たせたり、反対に一体化させたりすることで蓮の新たな表情を映し出しています。

また写真を通じて、陶磁器に施された文様が何を表しているのかを改めて確かめることもできます。軽やかな筆致で描かれた文様たちは決して架空の描写などではなく、実物の写生に基づいたものであることがわかるのです。陶磁器と写真の双方を見比べることで、陶磁器においては図像の再解釈を、そしてモチーフとしての蓮本来の魅力を改めて知ることができるでしょう。

こちらの壺には、中央の蕾の花弁一枚一枚が写し取られたそのままの姿で描かれています。

手前の瓶と写真では一体何が共通しているでしょうか。瓶の蓮の茎にあるギザギザ模様は、どうやら池面に映る葉の影のようです。影全体を描かずに輪郭の断片だけを描くという、陶工の遊び心がうかがえる一作です。

写真の壺には、蓮の花と蓮池に泳ぐ魚の姿が見えます。蓮は仏教の伝来とともに装飾イメージとして定着していきますが、中国では男女の愛情や生活の豊かさを表わすなど吉祥文様としての側面も持っていました。たとえば、池に群生する蓮は多くの種をつけることから子孫繁栄を意味し、池を泳ぐ魚は男性の、蓮花は女性の象徴として表されます。いくつかのモチーフを組み合わせることで、男女が出会い、結婚をして子孫を残していくという、人間の幸福な一生の姿を表現するような複雑な意匠が生まれていきました。

こちらは中国に伝わる「一品清廉」という画題を表わしているようです。白い器肌の中央に蓮花を一輪だけ描き、わずかに蕾や葉をつけた茎を配置するという姿に、あるイメージを託します。背面を覆う蓮池のモノクロ写真とも相まって存在はより引き立てられています。この壺は一体何を表現しようとしているのか、その正体をぜひ会場で確かめてみてはいかがでしょうか。

展示されたやきものと写真の間を行き来することで見えてきたのは、人びとが託したさまざまな象徴としての「蓮」の奥深いイメージと、それを表現し続けた古の 陶工たちの姿でした。やきものが好きという方も、写真が好きという方も、表現の領域を越えて時代を経てもなお人びとを魅了し続ける「蓮」の世界を、改めて深められる機会になっているといえるでしょう。

常設展示室では国宝を

蓮展を見終わっても当館の見どころはまだ続きます。大阪市立東洋陶磁美術館は、大阪市にあった総合商社・安宅産業の取締役安宅英一氏によって収集された東洋陶磁に関する企業コレクションを、住友グループ21社から寄贈されたことによって設立されました。

そのコレクションを代表する国宝《飛青磁 花生》(とびせいじはないけ)と《油滴天目 茶碗》(ゆてきてんもくぢゃわん)の2点が常設展示されており、鑑賞することができます。

やきものを鑑賞するときにまず注目したいのが、器形(かたち)・色(釉薬)、そして景色(全体の模様・様子)です。また、かつて誰が所有し、どのように伝えられてきたのかという経緯が明確であることも、古陶磁を鑑賞する上では重要な要素といえます。

《飛青磁 花生》のかたちは、玉壺春(ぎょっこしゅん)といい、ふっくらとした胴と引締まった頸が特徴です。かつて中国では、青磁における青色は「雨上がりの空の青」を理想としたといわれ、本作においても透き通るような青がムラなく均質に器体を覆います。また、江戸時代の大坂の豪商鴻池家に伝世したものと考えられています。完璧な器形、散りばめられた斑点模様、釉薬の素晴らしい発色などといった要素も揃い、現代青磁の手本ともいえる名品として今日に伝わっています。

※「飛青磁」とは、器表に鉄釉の斑点を散らし、その上に青磁釉を掛けたやきもののこと。この一風変わった模様のやきものを日本人は茶道具として珍重してきました。

《油滴天目 茶碗》の魅力は、何といってもその油滴が現わす景色にあるといえます。水に浮かぶ油の滴のような斑点が現れた天目茶碗を「油滴天目」といいます。口縁部では小さく、胴中央部では大きくというように、金・銀・紺に輝く細やかな斑点が茶碗の内外をびっしりと埋め尽くします。また、口径約12センチの逆円錐状のかたちは、茶事にふさわしい気品と格式をそなえた優れた器形といえるでしょう。豊臣秀次から西本願寺や三井家などの各家へ渡ったのち、今日に伝世されました。

※「天目茶碗」とは、天目釉と呼ばれる鉄釉を施した茶碗のこと。日本へは鎌倉時代に喫茶(のちの茶道)の文化とともに多く持ち込まれました。

国宝2点は、照明として自然光を取り入れた自然採光室に展示され、作品本来の美しさを楽しむことができます。また常設展示室には3台の回転式展示台があり、狭い展示空間でも作品全体を見せる工夫がされているのも当館の特徴といえるでしょう。

今年から国宝は2点同時に常設展示されるとのこと。但し、展覧会等の状況により展示されない場合もあるとか。この機会に古陶磁の粋に触れてみるのも一興です。

Emiko Kawamura

Emiko Kawamura . 群馬県生まれ。武蔵野美術大学芸術文化学科卒業。京都の古美術商に勤め、日本近世~近現代におよぶ墨跡・絵画・工芸品等の商いの現場に触れる。それ以後京都を拠点に、洋の東西・古今を問わず美術という複雑怪奇な分野の周辺をねり歩き、観察を続ける。京都市在住。 ≫ 他の記事

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