誰にも頼まれてないんですが、勝手な使命感にもえてしまった

ー兵庫県苦楽園「galerie6c」

In フォトレポート by Mitsuhiro Sakakibara 2014-11-11

ギャラリーの魅力は、そこで行われる展覧会だけではありません。空間のつくられ方やオープンまでのエピソードなど、普段はあまり気に留めないギャラリーの別の魅力にも目を向けてみてはいかがでしょうか。

galerie6cは、兵庫県西宮市の苦楽園というエリアにある、マンションの一室をリノベーションしたギャラリーです。阪急苦楽園口駅から徒歩数分という好アクセスの立地ながら、落ち着いた街の環境もあり、静かに展示やその他の企画を楽しむことができます。必ずしもギャラリーや美術館がひしめくようなエリアではないこの街で、なぜギャラリーを運営しているのか、そしてどんな空間ができあがっているか、お話をうかがいました。

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「ここだと毎年桜が見れるなぁ」と苦楽園に住むことに決めました

galerie6cを運営する多喜淳さんは、普段グラフィックデザインの仕事を行いながら、ギャラリーを運営しています。のみならず、苦楽園界隈の商店で組織する「苦楽園ストアーズミーティング」、市内の約10ギャラリーでつくる連絡会の役員や、夏至と冬至に電気を消し、キャンドルを灯すことでいつもと違った夜を過ごす「苦楽園・夙川キャンドルナイト」の実行委員長も務めていたり、街を盛り上げるための取り組みにも精力的に携わります。

かつてバブルの頃、マーケティング会社でプランニングの仕事に携わられていた多喜さん。「自分のやってる仕事が机上の空論に思えて、なんか違うな」と感じ、手に職をつけようと思い立ち、グラフィックデザイナーを目指すことに。デザインの専門学校に通い、晴れてデザイナーという職を手にします。二つ目に入ったデザイン事務所がデザインスクールを運営することになったため、多喜さんはデザインの仕事をしながら、教頭的立場でそのスクールの運営に携わるようになります。

ところで、galerie6cが苦楽園にある理由は、多喜さんが30歳のときにこの地へ引越して以来、この地が多喜さんにとっての拠点となっているからです。一人暮らしをはじめようと当時住んでいた兵庫県尼崎市に位置する武庫之荘から、少し西にあたるここ苦楽園に物件を探しに来られたのがきっかけでした。今から15年前の話です。

「ちょうど桜の時期で、『ここだと毎年桜が見れるなぁ』と苦楽園に住むことに決めました。galerie6cをはじめてから、街のいろんな店主と仲良くさせてもらってるのですが、個性あふれる店主がいるお店がたくさんあるのもこの街の魅力です。」

誰にも頼まれてないんですが、勝手な使命感にもえてしまったんです

マンションの一室、現在galerie6cとして使われるこの場所との出会いは、そんな日常の中にありました。2002年に独立し、デザインの仕事をしながら苦楽園に住まわれていた多喜さんにとって、この場所はかつていきつけの花屋でした。ギャラリー名の中の「6c」の由来にもなった「6contents」という名前の、阪神間では人気の花屋。そのオーナーが2008年にパリに行くことになり、この空間が必要なくなってしまいました。

「勝手な思い込みなのですが、このままだとこのビルのオーナーは、この空間をつぶして、住居にもどすだろうなぁ。このステキ空間がなくなったら、僕含めファンの方々がさみしい気持ちになるだろうなぁ。この空間を残さないと!!と、誰にも頼まれてないんですが、勝手な使命感にもえてしまったんです。」

「ここを残すために自分には何ができるか?」と考えた多喜さん。デザインの仕事をしていることもあり、写真家やイラストレーターなどモノづくりのプロがまわりにいるため、作品の展示はできる。そしてデザインスクールでも、モノづくりの楽しさを知ってもらうためのワークショップも行っているため、ワークショップもできる。これはギャラリーというものができるのではないか、という思いで、新しい空間の使い方をはじめました。

ギャラリーに来るきっかけをつくってみてるんです

企画展示、スペースレンタル、作品販売などなど、多喜さんにとっては未知なことが多い中、若い作家さんにいろいろと教えてもらいながら2008年にスタートしたgalerie6c。「この場所を残す」という多喜さんの最初の想いもあり、空間づくりも「できるだけそのままに」ということを心がけたそう。

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空間の内部にはかつて花屋が書いた落書きもそのままに残っており、凹凸がついていたり、無数に穴が空いていたり、展示用のフックがついていたりする白い壁面は、それ自体が多様な表情を見せてくれます。駅方向、東向きに開いた大きな窓からは気持ちの良い光が内部を照らします。

このギャラリーの特徴は、ギャラリースペースの先に「図書室」があること。資料室とは異なる、ゆったりくつろげるようなスペースが備えられ、いろいろな人が持ち寄った、さまざまな書籍が本棚に所狭しと並べられています。このスペースをつくられた理由を聞くと、こんな答えが返ってきました。

「最近では、そうではなくなってきてますが、ギャラリーってちょっと敷居が高いと思われてるところもあって。いや実はそうじゃないんですよ、アートやデザインはもっと身近なもんなんですよ、って思ってもらいたくて。だから、アートの展示だけでなく、文房具の展示や、古本市、雑貨マルシェなど、アートとはちょっと違った、誰もが興味があるモノの企画もやって、ギャラリーに来るきっかけをつくってみてるんです。図書室もそのひとつです。」

見慣れたマンションの風景の中にあって、古材、アンティーク、植物に囲まれる印象的な導入の先に、さまざまに利用できる包容力のある白い空間が待っています。ギャラリーの隣の中庭のようなスペースには、同じフロアで植物を育てる鳥越隆志さんが手がけた植物や、かつてこの場所で滞在制作を行ったアーティストが残した作品の断片が。ギャラリー内部のみで完結するのではなく、その手前にある「中庭」や、その先にある「図書室」など、周りの環境とともに展示を楽しんでもらうこと。多喜さんがgalerie6cでつくる「きっかけ」は、そんな配慮のもとにつくられているように思います。

「作家さんが、来てくださる方が、そしてぼくたちが、楽しいこと」を心がけながら普段展示を企画されていると語る多喜さん。過去の企画ではgalerie6cオリジナルのスリッパを作家さんと一緒につくられたそうですが、そんな「オリジナル」はこれからも展開していきたいとのこと。取材時は「叶谷真一郎個展『うつわあり〼』」が開催中。

11月20日からは、ドローイング、ペインティング、オブジェなどジャンルを問わず制作を行うwassaさんの個展が開催される予定。galerie6cの中に小屋がつくられる、面白い空間ができあがるようです。「ギャラリーの特色をもう少しだしていかないと、と思ってます」という、これからのgalerie6c「らしさ」にも注目していきたいと思います。

 

文章・写真・スケッチ:榊原

 

Mitsuhiro Sakakibara

Mitsuhiro Sakakibara . 建築や都市のリソースを利用して暮らし働く人の声を集め、彼らへのサポートを行う。個人として取材執筆、翻訳、改修協力、ネットカフェレポート等を実施。また、多くの人が日常的に都市や建築へ関わる経路を増やすことをねらいとし、建築リサーチ組織「RAD(http://radlab.info/)」を2008年に共同で開始。建築展覧会、町家改修その他ワークショップの管運営、地域移動型短期滞在リサーチプロジェクト、地域の知を蓄積するためのデータベースづくりなど、「建てること」を超えた建築的知識の活用を行う。 ≫ 他の記事

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