京都四条大宮、後院通りから細い道を北へ上がったところに位置する築70年ほどの木造アパートを改修した「宿泊型のアートスペース」KYOTO ART HOSTEL kumagusuku(以下:kumagusuku)がオープンしました。
オーナーは自身もアーティストである矢津吉隆さん。自身が作家活動を行う中で疑問に感じた、ギャラリーなどでの「通過していく鑑賞」とは異なる作品の見せ方がいかに可能か? そうした思いから、宿泊する中で長い時間をかけて作品を鑑賞してもらうための環境をつくりました。
kumagusukuの建築設計は大阪を拠点とする建築事務所dot architectsによるもの。「京都に多くある町家ゲストハウスにはしたくなかった」という矢津さんの言葉通り、既存の壁面やタイル地に、新しく挿入した地肌がそのままの合板や左官仕上げのテクスチャが並ぶ印象的な雰囲気が生まれています。また、工芸家がいかにして建築に関わることができるか、をテーマにするAPP ART STUDIO「工芸の家」との共同による、漆の階段、タイルが埋め込まれた三和土(たたき)などの存在が、この場所の体験をより豊かにしています。
1階にはシャワーやトイレ、キッチンが備えられ、2階につくられた4部屋には最大9名が宿泊可能。宿泊と展示とを空間で分けず、宿泊する環境全体に作品が置かれていることが特徴です。「作家よりもキュレーターに選んでもらったほうが作家にとって有意義」という思いから、矢津さんが選定したキュレーターが作家や作品、展示場所などを決めていきます。「自身の作品として完結させたくない」という意思によって、矢津さん自身の作品は置かれていません。最初のキュレーターは奥脇嵩大さんです。
kumagusukuの「宿泊型のアートスペース」というコンセプトは、2012年、沖縄のゲストハウスに矢津さんが滞在している際に得た着想によるもの。その背景にあったのは香川県直島での経験。大竹伸朗による直島銭湯『I LOVE 湯』など、旅という非日常感の中でアートを見るという体験が参考になったと語ります。当時、自身の活動の展開として海外での制作を考えていた矢津さんですが、「そのための資金を使って、むしろ日本で起業してみよう」と決断。相談を持ちかけたデザイナーの原田祐馬さん(UMA / design farm)からdot architectsを紹介してもらい、またアーティスト支援事業を行う東山アーティスツ・プレイスメント・サービス(HAPS)から行政書士の藤本寛さんを紹介してもらい、次第に企画が具体化していきます。
ところが、京都での開業を目指す中、思いもよらぬ形で香川県小豆島に第1号のkumagusukuがつくられることになります。あるとき原田さんらが進める、小豆島での「瀬戸内国際芸術祭2013」に呼ばれた矢津さん。持参した企画が現地で好評を受け、実際に観音寺という寺院にアーティスト井上大輔さんとともにkumagusukuをセルフビルドでつくることに。2013年夏から秋にかけて、3ヶ月限定で「醤の郷+坂手港プロジェクトー観光から関係へ」の一プロジェクトとして多くの鑑賞者を受け入れました。ここでの経験が京都でのkumagusuku実現の大きな一歩になりました。
そんな奮闘の期間にも、京都堀川団地やフランスでのプロジェクトに関わっていた矢津さん。大変な経験だったと語りますが、京都にkumagusukuを実現するために欠かせない人のつながりができました。物件を管理していたA.S.K – atelier share kyotoには場所を借してもらうのみならず、理念に共感し、協賛という形での資金援助を受けました。矢津さんの強い思いを起点に、さまざまな人の協力関係によって成立したkumagusuku。「言い続けてたら2年でこういうスペースができあがりました。言ってみる価値はありましたね」と語ってくれました。
1階中庭と奥のスペースは誰にでも開かれた場所「art space ARE」として、宿泊客にのみオープンなkumagusukuとは異なる形で使われていきます。kumagusukuの宿泊受付は、2015年1月から予定されています。
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KYOTO ART HOSTEL kumagusuku /京都アートホステル クマグスク
http://kumagusuku.info/
宿泊鑑賞料:5,000 – 8,500円(予定)
予約開始:2015年1月以降
代表:矢津吉隆
建築設計:dot architects
デザイン:UMA/desgin farm
住所: 〒604-8805 京都市中京区壬生馬場町37-3
電話:075-432-8168
メール: mail@kumagusuku.info
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