シンガポールのアートシーンのいま

ルネッサンス・シティ・プランが結実する2015年に向けて

In 特集記事 by Chisai Fujita 2014-12-16

以前、香港について記事を書いたが、今回はシンガポールを取り上げる。経済(金融)では香港と張り合っているが、医療、教育、そして文化などのハブとして国家政策を立てていることはご存知の方も多いだろう。

■Singapore Art Fair

「Singapore Art Fair」は、今年11月から始まった新しいアートフェアである。関西目線で見ると、東京のギャラリーYUMIKO CHIBA ASSOCIATESから大阪在住のアーティスト2人、植松琢麿と中西信洋が出品していた。しかし会場でスタッフは「2人の作品はシンガポールにはなじまないようだ」と嘆いていた。シンガポールの観客は作品のコンセプトを理解するというより、作品を触ろうとしたり、制作方法を訊ねたり、と見た目に反応をしてしまうらしい。

果たしてそうだろうか。というのもYUMIKO CHIBA ASSOCIATESはさておき、ほとんどの日本のギャラリーの作品や提示方法がそこまでクレバーに思えなかったからだ。私と一緒に見て回った他国のジャーナリストたちは「日本のギャラリーが出している作品は、いまだに人の顔あるいはただ画面を塗っているだけ、それか草間彌生」と言っていた。まさにそうで、アートフェアの特性を把握しないで「またこれか」と思わせる作品を出しているのは、日本のギャラリーだけのように感じた。

Singapore Art Fairのテーマは「ME.NA.SA.ART」、ME=中東、NA=北アフリカ、SA=東南および南アジアのアートを紹介するというもの。この画像でライブペインティングをしているのは、文字通り「ME.NA.SA.ART」それぞれから選ばれたアーティスト3人。シンガポールのAntz、インドネシアのDarbotz、そして写っているのがレバノンのYazan Halwaniである。このミックスは、戦争とか世界平和とかではなく、それぞれの国のアーティストを紹介することでもない。シルクロードのように、文化がつながるさまを表したまでのことである。

■ART STAGE SINGAPORE

シンガポールでアートフェアと言えば「ART STAGE SINGAPORE」であろう。2015年は1月22日~25日に行われる。規模はアートバーゼル香港に匹敵するが、ギャラリーブースだけでなく、多民族・多文化国家のシンガポールらしくテーマは「We are Asia.」を掲げて、キュレーターが選抜した国・エリア別のパビリオンも設けられている。例えば2014年1月の日本パビリオンでは、先に挙げた中西信洋が大規模なインスタレーションを展開していた。

中西は「私はロンドンやチューリッヒなどで展覧会をしていますが、アートフェアはヨーロッパの視点から構成されているものだと思いました。しかしシンガポールに行って、多様性を感じました。例えば、僕たち日本人にはなじみがないイスラム圏の作家やお客さん。 肌色や言語だけではなく、宗教や思想が異なる彼らから生まれる作品は、私にとって今まで見たことがないものだったのです。それを分かるためには、彼らのバックグラウンドを理解したり、彼らが抱える問題を知る必要があるでしょう」と語る。

国・地域の特性はモチーフや画材だけではないとき、あるいは、だんだんとアートフェアは「作品を売ること」だけの場ではなくなっているとき、日本は何を持って世界と戦うことができるだろうか。

■2015年にできる2つの美術館

2015年にシンガポールに新しく2つの美術館ができることは、10月16日に東京・秋葉原の3331 Arts Chiyodaで記者会見があったのでご存知の方も多いだろう。

ひとつめが、パリにあるピナコテーク・ド・パリのシンガポール版「Singapore Pinacothèque de Paris」。市内中心部にあり、シンガポールの歴史遺産でもあるFort Canning Park内のFort Canning Arts Centreを美術館にするため、現在改装工事中。シンガポールでピナコテーク・ド・パリのコレクションを見ることができるなんて、うらやましい限りである。

もうひとつがNational Gallery Singapore。裁判所と市役所をつなぐ形で、現在美術館へ改装工事を行っている。既にワークショップを行い、近くの地下鉄の駅に市民協働の作品を展示するなど、オープン前の普及活動は始まっている。また、ニューヨーク市立近代美術館(MoMA)やフランスのポンピドゥーセンターと連携も図り、東南アジア美術の研究もなされるという。

■現代アートを支える場づくり

よく知られているのは、現代美術のギャラリーとアートセンターが集まった「ギルマン・バラックス」だろう。日本のギャラリーはオオタファインアーツ、小山登美夫ギャラリー、ミヅマアートギャラリーがあるが、関西のギャラリーはゼロ。ただ彼ら日本のギャラリーだからといって、展示される作品や作家は日本人と限らず、また逆に、他の(海外の)ギャラリーであっても日本人の作品や作家の展覧会をしていることもある。

また、ケッペル・ロードに立ち並ぶ倉庫の一角でも、「Artspace@Helutrans」と名付けられたギャラリーコンプレックスがある。

大型展では、「シンガポール・ビエンナーレ」も行われている。2013年の回は、27人ものキュレーター(日本人は該当者なし)がアジア各国からアーティストを選出し、コンペティションで選ばれたアーティストも加わる。シンガポール国立博物館(National Museum of Singapore)、シンガポール美術館(Singapore Art Museum)などを会場に、現代の社会を映し出すような印象深い作品を見ることができた。

その他、ダンスや音楽など他ジャンルのアーティストの発表や支援の場「Goodman Arts Centre」なども充実させ、シンガポール国内外のアーティストも受け入れている。

25年以上前からシンガポール政府は「ルネッサンス・シティ・プラン(RCP)」を打ち建て、国立のアーツカウンシルを設立するなど文化支援の国家組織もいくつかつくり、現代アートを含めた文化事業に力を入れてきた。RCP最終章である第3章を読むと、「2015年」が達成目標となっている。つまり2015年、「これからどうなるのか」というところに立たされるのだろう。

私は「シンガポールは多民族・多文化国家であるということで、アートを『経済目的』といった一時のブームではなく、『ごくふつうにあるもの』として受け入れる」と考える。そのクオリティや規模をどう維持するのかは分からないが、アートイベントを多発して文化普及をしている気になっているような日本とは考え方が違う。

また、アートフェア、新しくできる美術館、ビエンナーレ、アートセンターのいずれも、シンガポールというひとつの国に閉じこもらず、他国との連携を取り、交流を図っている。アートあるいは文化は、自国で消費されるものではない、制作したいだけのアーティストは別だが。アートを手段にして、私たちは世界に出向き、多くの人たちと出会い、交流をし、次の時代をつくっていく必要がある。しかし現在の日本は目先の問題をどうこうするばかりで、シンガポールのように国家主導で文化やアートを何か継続的に行うことは難しい。せめて読者のみなさんと、関西で何かできないかということを考えて行けたら、と私は思う。

Chisai Fujita

Chisai Fujita . 藤田千彩アートライター/アートジャーナリスト。1974年岡山県生まれ。玉川大学文学部芸術学科芸術文化専攻卒業後、某大手通信会社で社内報の編集業務を手掛ける。5年半のOL生活中に、ギャラリーや横浜トリエンナーレでアートボランティアを経験。2002年独立後、フリーランスでアートライター、編集に携わっている。これまで「ぴあ」「週刊SPA!」「美術手帖」など雑誌、「AllAbout」「artscape」などウェブサイトに、展覧会紹介、レビューやインタビューの執筆、書籍編集を行っている。2005年から「PEELER」を運営する(共同編集:野田利也)。鑑賞活動にも力を入れ、定期的にアートに関心の高い一般人と美術館やギャラリーをまわる「アート巡り」を開催している。また現代アートの現状やアートシーンを伝える・鑑賞する授業として、2011年度、2014年度、2015年度愛知県立芸術大学非常勤講師、2012年度京都精華大学非常勤講師、2016年度愛知県立芸術大学非常勤研究員、2014~ 2017年度大阪成蹊大学非常勤講師などを担当している。 写真 (C) Takuya Matsumi ≫ 他の記事

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