もともとからある建物や空間に魅力を感じてもらいたい

ー関西ギャラリー探訪|建物と人:神戸市「KIITO」

In フォトレポート by Mitsuhiro Sakakibara 2015-06-11

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ギャラリーの魅力は、そこで行われる展覧会だけではありません。空間のつくられ方やオープンまでのエピソードなど、普段はあまり気に留めないギャラリーの別の魅力にも目を向けてみてはいかがでしょうか。

KIITOは兵庫県神戸市にある1920年代後半から30年代前半につくられた元神戸市立/国立生糸検査所【以下:旧生糸検査所】という2つの建物を改装した施設。JR三ノ宮駅から南下し、高松や小豆島などへつながるジャンボフェリー乗り場近くに位置しています。「デザイン・クリエイティブセンター神戸」という名称が示す通り、展覧会のみならず、レクチャーやワークショップなどを開催。2014年度はプロジェクトの数も230を数え、レンタルスペース利用も含めると10万人を超える来館者が1年間でつめかけるほど。その成果の常設展示も行われています。

2012年に正式オープンしたKIITOですが、この建物のすぐ北には国道2号線や阪神高速3号神戸線が通り、「国道2号線より南は四国」と言われるほどの場所に位置しています。KIITOとはどのような施設なのか。またその中にはどのような方々がいらっしゃるのか。マネージャーの近藤健史さんとスタッフの佐藤真理さんにお話をうかがいました。



旧生糸検査所からKIITOへ

まずKIITO正式オープンまでを見ていきましょう。はじまりは2008年神戸市がユネスコ創造都市ネットワークのデザイン都市に認定されるところから。市はその拠点をつくるため、翌2009年にKIITOの前身にあたる旧生糸検査所を取得します。以降2010年5月から同年10月まで、生糸検査所からKIITOへ改修を行うための「設計期間」には、旧生糸検査所を文化芸術に関する創造的活動を行っている団体へと提供する「クリエイティブスペース提供事業」を展開。その数およそ6ヶ月にわたり100団体以上。当時は申し込み制をとっており、当時の神戸市企画調整局デザイン都市推進室職員がコーディネーションを行い使用者を選定。当然のことながら改修前のため空調もなく過酷な状況ながら、パフォーマンスや展示などが活発に行われていたようです。当時について近藤さんはこう話します。

近藤さん「KIITOに来られる方の中にはその時のことを知っている方もいらっしゃって、昔ここでダンスのイベントをしました、とか、ここで展覧会しました、とかおっしゃられる方もいますね」

2010年11月から正式オープンに向けた改修がはじまり、それまでの流れを止めないようにと、KIITOのいわば「準備室」が2011年から神戸商工貿易センタービルに開設。永田宏和を代表とするまちづくり、建築、アートの分野で企画・プロデュースを行う株式会社iop都市文化創造研究所が主に企画を行うため、240平方メートルのスペースに5人のスタッフが常駐。クリエイターらに活動場所を提供したり、情報を伝えたり、現在でも継続しているセミナーやワークショップなどを開催したり、当時を知る人が「部活みたいだった」と語る環境が生まれていました。

こうして、改修を終えた旧生糸検査所が、これまでの「調査期間」を引き継ぐかたちで「+クリエイティブ」をテーマに新生KIITOとして2012年に開館。運営は株式会社神戸商工貿易センター、KIITOセンター長芹沢高志を代表とするピースリーマネジメント有限会社、株式会社iop都市文化創造研究所の三社によるジョイントベンチャー。後二社はソフト面の企画に関わりますが、ピースリーマネジメントはとりわけアートに関わる部分を担当しています。



完璧にしすぎない、という改修方針

こうして2008年以降文化芸術にかかわる様々な取り組みを受け入れている旧生糸検査所。旧館にあたる神戸市立生糸検査所の設計は神戸市営繕課によるもの。生糸から蚕をモチーフにした意匠があしらわれた、垂直性が印象的なネオゴシックと呼ばれる建築様式でつくられました。一方の新館にあたる国立生糸検査所は兵庫県の営繕課長を務めた置塩章による設計。旧館の印象を引き継ぎながらも、スクラッチタイルを多用した独特の印象を残す建物です。戦後には生糸検査所としての役目を終え、その後農林水産省管轄の施設へと転用。一時は海難審判所としても活用されました。

2011年からの改修では「なるべく元の状態を保つ」ことを旨とし、かつての空間はもちろん、審判所時代の部屋名プレートや建具などをいまも部分的に見ることができます。こうした歴史的建物を現在使うのは、KIITOスタッフやそこで行われるイベントの参加者のみならず、3F、4Fにあるクリエイティブラボ※ に入居する団体も含まれます。必ずしもアクセスのよい場所とは言えないこの地にありながら、入居率は常時ほぼ100%。近藤さんはその理由をこう推測します。

近藤さん「この建物自体に魅力を感じてもらったり、展開する事業に賛同してもらったり、室内部の改修が可能であることに魅力を見出した人たちの目に止まり、入居希望も多いんです」

フロアガイドはKIITOウェブサイトから見ることができます

2013年には入居者の要望を受け、本来はより大きかったオフィスの分割工事を神戸市が実施。こうした自由度の高さを可能にしたのは、限られた改修費などの制度的な条件でした。

近藤さん「大きい建物の改修は完璧にするのではなく一旦ある程度のところでオープンし、その後必要なものを付け加えていく、という方針が正当だと思うんです。KIITOはそれがうまくいったのではないかと思いますね」

同じく2013年には、KIITOカフェの床をリノリウムからフローリングに替える「カフェの床を貼ろう」を、ものづくりワークショップとして実施。直接的間接的に空間へと手を入れることによって建物への愛着が生まれ、結果、KIITOの空間をめぐって多様なコミュニティが生まれているところが興味深い点として見えてきます。例えば、KIITOで実施しているセミナーやゼミなどでのつながりや、入居者同士での集まり、そしてKIITOの事業にこれまで関わった280名以上の方々によるコミュニティ。また特徴的なところでは「中庭」をめぐるコミュニティ。すでに存在するコミュニティが育むものというイメージがある中庭ですが、KIITOでは、アーティストユニット・生意気と中庭をつくることで、庭から新しいコミュニティを生み、育もうという試みが行われています。

KIITO発の取り組みは必ずしも建物の中だけにとどまりません。一例としては、三宮からKIITOまでの道の景色を変えてみよう、というテーマで行われた劇団ままごと主宰・柴幸男とNO ARCHITECTSによる「まち歩きでつくる小説と地図」という試みがあります。まちあるきをして気になるところを地図にマッピングし、ピックアップしたものごとを主人公にして小説をつくるというワークショップが行われました。

近藤さん「入居者の方とお話する中で印象的だった意見は、NYでも線路を超えるとガラッと町の雰囲気が変わっていたりする、KIITOもそんな場所にあるかっこいい施設にしていきたいね、と。それはすごくいい考え方だなと思いましたね」

「デザインセンター」とはいえ、色やかたちなど目に見えるところを綺麗にすることだけではなく、「デザイン」という言葉の意義を考えることこそ、KIITOが重視するところです。コンセプトとしてある「+クリエイティブ」なる言葉も同様に、何か限定されたものではなく「異なる視点から認識を変えること」であったり、他の人と話したり交流することで新たな意見を取り入れるための「気づき」なのではないか。そんなお2人の考えが印象的でした。

年間で平均すると2日に1回はイベントが行われているKIITOですが、現状は単発の予約制イベントが多数。フラっと立ち寄った際に見てもらえる展示などがもっと増えたら、と佐藤さんは語りますが、プロジェクトのアーカイブが展開すればより魅力的な展示空間になるように感じます。佐藤さんには「もともとからある建物や空間に魅力を感じてもらいたいです」と続けて展望を話していただきました。多様に使われる歴史的建物の現在の姿を見に来るのも面白いかもしれません。

来訪のタイミングは6月と3月のオープンイベントがオススメです。ライブラリでは書籍や全国のフリーペーパーを設置しており、自由に閲覧・持ち帰りができます。2015年8月22日からは、大阪のローカル・カルチャー・マガジン『IN/SECTS』と共同企画した展覧会が予定されています。ぜひ一度足を運んでみてください。

文章・写真:榊原

デザイン・クリエイティブセンター神戸 KIITO
開館時間:11:00 – 19:00
休館日:月曜日(祝日、振替休日の場合はその翌日)、年始年末(12/29 – 1/3)
入館料:無料
住所:兵庫県神戸市中央区小野浜町 1-4
TEL:078-325-2201
Email:info@kiito.jp

Mitsuhiro Sakakibara

Mitsuhiro Sakakibara . 建築や都市のリソースを利用して暮らし働く人の声を集め、彼らへのサポートを行う。個人として取材執筆、翻訳、改修協力、ネットカフェレポート等を実施。また、多くの人が日常的に都市や建築へ関わる経路を増やすことをねらいとし、建築リサーチ組織「RAD(http://radlab.info/)」を2008年に共同で開始。建築展覧会、町家改修その他ワークショップの管運営、地域移動型短期滞在リサーチプロジェクト、地域の知を蓄積するためのデータベースづくりなど、「建てること」を超えた建築的知識の活用を行う。 ≫ 他の記事

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