地域密着型というのは避けたいと思ったんです

ー関西ギャラリー探索|建物と人:滋賀県「高橋美術」

In フォトレポート by Mitsuhiro Sakakibara 2015-09-11

ギャラリーの魅力は、そこで行われる展覧会だけではありません。空間のつくられ方やオープンまでのエピソードなど、普段はあまり気に留めないギャラリーの別の魅力にも目を向けてみてはいかがでしょうか。

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高橋美術は、滋賀県彦根市の中心部から少し離れたところにある、水墨画家である高橋良さんとアクセサリーデザイナーである赤部夏美さんご夫妻が運営されるスペースです。もともと自らのアトリエと展示スペースとしてつくられたスペースでしたが、今回外からの企画を受け入れ、今後もさまざまに活用していく予定とのこと。

これまでの経緯とあわせて、なぜ滋賀の彦根でこのようなスペースを持たれているのか、高橋さんにお話をうかがってみました。



先鋭的なことがしたい

滋賀県彦根市は高橋さんにとっての出生地。美術を志したのは20歳前後の時で、大阪のデザイン学校で広告デザインを学び、独学で水墨画をはじめました。作家活動をはじめた頃から大きな作品をつくることが多く、当時はアパートの小さいスペースで制作していたので、不自由さも感じていたとのこと。

作家として活動をはじめて、作品を見てもらった方に呼ばれ、2006年から2年間作家としてハンガリーで作品の制作とデッサンを学びました。一軒家を借りて、現地で展覧会も行いました。

その後帰国し彦根に。当時は実家で制作を行っていましたが、その後結婚して生活が変わったこともあり、制作場所と自分の家を整理したいと思うようになります。2013年のことでした。そして新たなスペースをつくるために選んだのが、現在高橋美術のある土地でした。

もともとこの場所は亡くなった父が残してくれた土地だったので、ここを活用したいという思いがあったんです。と同時に、この地に刺激を与えたいという思いもありました。駐車場になっていた敷地を活用するような形で、アトリエ、ギャラリー、そして自宅でもあるこのスペースをつくりました。

ちょうど高橋さんが彦根に戻った2008年頃は、彦根の魅力を盛り上げようと若い同世代の人たちが活動をはじめた時期と重なっていたそう。もともとアートの活動をするなら東京というイメージがあった、と語りますが、生まれたところを拠点にすることを決意しました。湖や森林が近くにあるという環境は高橋さんの制作にとってのインスピレーションにもなっています。

一方で、こうした若い人たちによる新たな動きの中心となる彦根城周辺から高橋美術はやや距離があります。「彼はすごく天邪鬼なところがあるんですよね」と赤部さんが語る通り、高橋さんにはある考えがありました。

地域密着型というのは避けたいと思ったんです。群れるのが得意じゃないので。敷居を高くしたいわけではないのですが、あくまでも先鋭的なことをやりたい、と。自分の作品でも人と違うものをつくりたかった。そういう面でも空間も同じようにしたいと考えていたんです。

そんな高橋さん、新しいスペースを設計する建築家として出会ったのが、京都を拠点とする建築設計事務所アルファヴィルでした。



屋根が印象的だった

高橋美術の設計を行ったのは、京都を拠点に構造的な工夫が空間性に奥行きをつくるような住宅建築をさまざまに手がける、アルファヴィルの竹口健太郎さんと山本麻子さんでした。

しかし、滋賀県にも建築家が多くいる中、なぜその選択だったのでしょう?

ここでギャラリーをするのであれば、これまで彦根になかったような建物にしたいという思いはずっとあったんです。建築家を調べる中で偶然アルファヴィルさんたちを発見して、京都にある波板を使った住宅兼カフェに惹かれました。あの冷たい感じが好きだなと思って、即決でしたね。

現在は住宅になっているHouse-restaurant [ MANIA ]という彼らの作品を見て一目惚れした高橋さん。大半はほとんど「丸投げ」だったと語りますが、その中でもいくつかの条件を設定していました。大きな作品も飾れること、自然光が大事であること、そして同じ作品でも違う時期に飾れば季節や場所によって感じ方も変わるような環境がいい、ということ。絵は直射日光に弱いため、北側と南側から光を取り、常に一定の光になるようにしました。おかげで、天気が悪くても明るい空間を保っています。

このスペースの設計にかける思いは、高橋さんのアルファヴィルさんには作品をつくってもらいたかった、という一言に集約されています。一方で、工務店さんは僕らの住宅をつくろうとしてくれていたから、彼らは大変だったかもしれません、とも続けます。

基本的には住居とギャラリーは分けた上でいろいろな案を出してもらい、1年くらいかけて設計をしていきました。最初の案は全部違ったんです。それでも屋根はどれもすごくこだわってらっしゃいましたね。実際この案にしたのもその屋根が印象的だったから、というのもありますね。小さい模型だったんですけど、すごい迫力だったんです。

アルファヴィルのサイトではSKYHOLEと名付けられているこのプロジェクト。平行四辺形をつくるように外壁が置かれ、その中に子供室や風呂、寝室などが入る「箱」が入れられています。その「箱」によって平面が三分割されており、「箱」の上下がそれぞれ居室とアトリエ/ギャラリーとなっています。平行四辺形の端と対角線上の端を結び合わせるようにして切妻屋根の骨が走っています。

言葉で説明すると難解に聞こえますが、壁や屋根といった要素自体は見慣れたもの。その構造のルールを変えることで、見たことのない空間が生まれています。まさにアルファヴィルの特徴が発揮された「建築作品」に仕上がっています。

「一番大変だったのは予算」と語る高橋さん。本当は同じ幅でもっと奥行きを長くする予定だったようです。また、当初は塗ることを考えていた屋根裏も予算の問題からそのままの木の色に残しています。が、現在ではそれが真っ白で端正な空間に特徴的な色をつけています。

今後の展開にかける思いを聞かせてもらいました。

尖ってる部分が絶対にいるなっていう思いはあります。展示も緊張感のあるようなものにしたい。これまで自分たちの作品を展示することが多かったんですが、今回の展覧会が外部からのはじめての展覧会なんです。作家さんにも空間を気に入ってもらって、それが嬉しいですね。

先入観を持たずに見てもらえるような展覧会をしたいです、と語る高橋さん。これからも興味深い活動が増えていくだろう彦根に、ぜひ足を運んでみてください。

取材時には月夜と少年を主宰する吉田航さんがキュレーションを行う「Indefinable Cities -まだ見ぬ都市から-」展の一環として、イギリス人作家ベン・コーブさんの展示が開催されていました。今後の展覧会は不定期での開催となりますが、高橋美術のFacebookページから最新情報を入手して訪れてみてください。

文章・写真・スケッチ:榊原

高橋美術
駐車場:あり
住所:滋賀県彦根市平田町694-7
電話:0749-20-4963

Mitsuhiro Sakakibara

Mitsuhiro Sakakibara . 建築や都市のリソースを利用して暮らし働く人の声を集め、彼らへのサポートを行う。個人として取材執筆、翻訳、改修協力、ネットカフェレポート等を実施。また、多くの人が日常的に都市や建築へ関わる経路を増やすことをねらいとし、建築リサーチ組織「RAD(http://radlab.info/)」を2008年に共同で開始。建築展覧会、町家改修その他ワークショップの管運営、地域移動型短期滞在リサーチプロジェクト、地域の知を蓄積するためのデータベースづくりなど、「建てること」を超えた建築的知識の活用を行う。 ≫ 他の記事

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