松谷武判の流れ

津波も氾濫も予測はできない

poster for Matsutani Currents

「松谷武判の流れ - MATSUTANI CURRENTS - 」 展

兵庫県(その他)エリアにある
西宮市大谷記念美術館にて
このイベントは終了しました。 - (2015-10-10 - 2015-12-06)

In フォトレポート by Chisai Fujita 2015-11-09

個人的な話から始めることをお許しいただきたい。

この展覧会を見に行く前に、私は2人の同世代(40歳前後)のアーティストと合宿をした。ひとりは版を重ねて、色面構成のような平面作品を制作する人。もうひとりは、映像、立体、絵画、と発表をする人。2人には「大学で版画を教えている」という共通点があるが、作品や考え方が全く異なる。彼らそれぞれも、そのときどきで作品のモチーフや色も異なる。見るほうの私も、彼らを継続して見ていない限り、断片つまりそのときの展覧会や作品しか知らない。本当は「前の作品があったからこの作品が生まれた」とか、「あのときどこそこにいたから、この作品が生まれた」とか、流れがあるし、不可能だけどひとりひとりの人生に寄り添うぐらいの気持ちで作品を見たいと思ってしまった。

そして今回、松谷武判の展覧会を見たとき、一時的な断片ではなく「アーティストとその作品を流れるように」体感できた喜びに包まれた。しかしこのレポートは、堰を止めるように見ていくことにする。

チケットを受け取ると、入口すぐに置かれたインスタレーションに「はっ」とする。直感で「庭に向かって、何か流れ出ている!」と察したからで、まずキャプションを見た。

キャプションは、画像右の立体を指していた。そして布は、

染みのようなドローイング、「Currents大谷」と松谷のサイン、制作年である2015が書かれていた。
そう、この作者、松谷武判が約50年前に制作した立体と、今年2015年に制作された布が「コラボレーション」していたのだ。展覧会タイトル「松谷武判の流れ」を端的に表す、滑稽な作品である。

松谷のアーティスト人生は、とても長いものであったようだ。なぜなら、10代のころの水彩画やスケッチブックも並ぶ。

具体美術協会と関わるようになった60年代、つまり今から50年以上昔の作品も見ることができる。

具体の作品といえば、画面から勢いを感じるものが多い。松谷も例外ではなく、彼の作品は、風船のように画面がふくらんでいる。だから、

体を壁に沿って見ると、大きな雨粒が垂れているような、メタボのおじさんのお腹のような、画面にふくらみを感じ取れる。ついクスッと笑ってしまう。作品キャプションにある「第1回毎日美術コンクールでのグランプリ受賞作のひとつ」というのも、妙に大きくうなずいてしまった。

そのグランプリで、1966年、フランス政府給費生としてパリへ留学した松谷は、版画制作をはじめた。シュルレアリスムを思わせる、不思議なモチーフが画面に広がっていることは、禅問答のような魅力もただよう。

松谷はそれから、フランスと日本を行き来するようになり、70年代から80年代にかけて、独特のモノクロームの世界を確立していった。

黒と白の長い分断、その先に滝のような流れ。つい「あ、流れてる」とつぶやいてしまいたくなる。しかもこの《流れ-5》の黒い部分は、鉛筆で描かれていると聞くだけで、卒倒してしまいそうだ。美術館では、大きな壁にのびのびと置かれているが、カタログにある過去の展示風景では、途中で画面が「折られて」貼られている。どちらが正しいか、という問題ではないが、異なる見せ方では、作品から感じる印象もだいぶ違うはずだ。

最後の部屋にあったのは、

1965年制作の写真作品《作品6のP》を、10年以上かけてアレンジ(展開)していた。上記画像のような少し盛り上がった平面、この図像に別の版を重ねたシルクスクリーン、1965年の写真作品を用いて2015年に制作したデジタルイメージなど、時代×技法の「流れ」が一気に見て取れた。

冒頭に書いた2人のアーティストとの合宿は、彼らを2015年という「断片」で切って、作品を見て、話を聞いたにすぎない。これまでの彼らを知っていても、これからの彼らが何を制作するかは分からない、不信感と不安感がつきまとう。
だからこそ、松谷武判の回顧展ともとれるこの展覧会は、松谷の長いアーティスト人生や作品の変化という「流れ」に、自然と巻き込まれて身をゆだねられる、とても貴重な機会に感じた。同時に、英語の展覧会タイトルにあるように、松谷は生きていて、作品をつくり続けていることも証明している場にもなっていた。私たちは変化をおそれないで進むべきなのかもしれない。ひとりのアーティストの生きざまが、私たちに多くのことを教えてくれている。

【概要】西宮市制90周年記念 松谷武判の流れ MATSUTANI CURRENTS
【会場】西宮市大谷記念美術館
【会期】2015(平成27)年10月10日(土)~12月6日(日)
【公式サイト】http://otanimuseum.jp/home/exhi/matsutani15/matsutani15.html

Chisai Fujita

Chisai Fujita . 藤田千彩アートライター/アートジャーナリスト。1974年岡山県生まれ。玉川大学文学部芸術学科芸術文化専攻卒業後、某大手通信会社で社内報の編集業務を手掛ける。5年半のOL生活中に、ギャラリーや横浜トリエンナーレでアートボランティアを経験。2002年独立後、フリーランスでアートライター、編集に携わっている。これまで「ぴあ」「週刊SPA!」「美術手帖」など雑誌、「AllAbout」「artscape」などウェブサイトに、展覧会紹介、レビューやインタビューの執筆、書籍編集を行っている。2005年から「PEELER」を運営する(共同編集:野田利也)。鑑賞活動にも力を入れ、定期的にアートに関心の高い一般人と美術館やギャラリーをまわる「アート巡り」を開催している。また現代アートの現状やアートシーンを伝える・鑑賞する授業として、2011年度、2014年度、2015年度愛知県立芸術大学非常勤講師、2012年度京都精華大学非常勤講師、2016年度愛知県立芸術大学非常勤研究員、2014~ 2017年度大阪成蹊大学非常勤講師などを担当している。 写真 (C) Takuya Matsumi ≫ 他の記事

KABlogについて

Kansai Art Beatの運営チームにまつわるニュースをお伝えします。

Facebook

KABlogのそれぞれの記事は著者個人の文責によるものであり、その雇用主、Kansai Art Beat、NPO法人GADAGOの見解、意向を示すものではありません。

All content on this site is © their respective owner(s).
Kansai Art Beat (2004 - 2020) - About - Contact - Privacy - Terms of Use