京阪電車「なにわ橋駅」構内にあるスペース、アートエリアB1では2010年から毎年、鉄道の創造性に着目した「鉄道芸術祭」を開催しています。vol.5となる今回は、ホンマタカシがプロデューサーとなって、複数のゲストアーティストと共に展覧会を構成しています。
ホンマタカシが京阪沿線で新作を撮り下ろし
こちらは原寸大の京阪電車を模したインスタレーション空間。窓の外に展示されているのは、ホンマタカシが京阪沿線の3箇所で撮影した写真です。蓮沼執太が写真の撮影地を巡り、フィールド・レコーディングして制作した音響作品とともに楽しめます。
撮影地のひとつ、光善寺駅ではホーム上の使われなくなった施設を光学装置「カメラオブスキュラ」に改造して撮影が行われました。その映像が、会場奥のスクリーンで見ることができます。風景が上下反転して写っているのは、カメラオブスキュラの性質で、ピンホールの外の風景が内側に逆向きに写るためです。会期中は「カメラオブスキュラ」となった光善寺駅の施設を訪れるツアーも実施され、参加者は反転した映像を寝転がって見たり、紙に写しとってみたりしながら貴重な装置を体験しました。
平成生まれのアーティストが活躍
電車などの公共の空間でよく見る「居眠り」「ヘッドホンからの音漏れ」「ポイ捨て」といった迷惑な行為。こうした行為を、ユーモアたっぷりに表現したのが1990年生まれの今福華凜と大谷将弘のユニット「PUGMENT」、89年生まれの小山友也、NAZEです。
「PUGMENT」は、電車で居眠りする人の服の写真をテキスタイルにプリントしてパジャマや寝具を制作。NAZEはグラフィティーを想起させる壁画や、日頃から拾い集めているものを組み合わせて鉄道模型空間を制作。小山友也は、ヘッドホンから音漏れしている人の横で、ダンスするという映像作品を発表。
どれも「迷惑な行為」を逆手に取った、ユニークでアイロニカルな作品ですが、なかでもインパクトがあったのは小山の作品です。小山のダイナミックなダンスに、音楽を聴いている人が気付いて怒らないかと若干心配になりますが、大阪や東京の各地で行っても、トラブルは1度も起こらなかったそうです。大胆なことをしても会話が生まれたりすることがないという、公共の場所での独特のコミュニケーションのあり方が浮き彫りになっています。
展覧会にはほかにも、ホンマタカシが小津安二郎、リュミエール兄弟、ヴィム・ヴェンダースの作品を引用したインスタレーションや、黒田益朗による「宿り木」の記録インスタレーション、マティアス・ヴェルムカ&ミューシャ・ラインカウフによる映像作品が出展されています。
見応えある展示が入場無料なのが嬉しいです。12月26日(土)には、2人のトークゲストと6組の出展作家やクリエイターによるスペシャルなクロージングイベントが行われるので、これに合わせて出かけていてはいかがでしょうか。
撮影=井上嘉和
【関連イベント】
クロージングイベント「これからの、もうひとつの電車」
12月26日(土)16:30〜19:00
*参加無料、事前申し込み不要。
【概要】
もうひとつの電車 -alternative train –
会期:10月24日(土)〜12月26日(土)12:00〜19:00 月曜休
*12 月13 日〜 25 日は、21:00 まで開館延長
*最終日は、クロージングイベント開催に伴い、展覧会のご観覧は16:00までとさせていただきます。
*入場無料