韓国・光州に新しく生まれた国立アジア文化殿堂

その国や地域における文化のありかたを改めて考え直す

In 特集記事 by Chisai Fujita 2015-12-02

2015年11月、アジアに2つの大きな美術系施設ができた。ひとつがシンガポールの「National Gallery Singapore」、もうひとつが、今日ご紹介する韓国は光州の「国立アジア文化殿堂」だ。

光州といえば「光州ビエンナーレ」(次回2016年開催予定)が知られるが、韓国では文化や芸術の街として親しまれている。例えば10月には、イベント「PORT JOURNEYS DIRECTORS MEETING GWANGJU」が開かれた。これは2011年横浜市にある「象の鼻テラス」からはじまった、日本(横浜)、韓国(光州)、ドイツ(ハンブルク)創造的な活動によりまちづくりを推進する港町を文化交流でつなぐプロジェクト「PORT JOURNEY」の一環事業で、この「PORT JOURNEY」プロジェクトに関わるディレクターたちが光州に集まり、トークセッションやディスカッションなどを行った。つまり、国内のアーティストだけで展覧会をしている日本と異なり、アジアや世界各地のアーティストの展示や交流を図っているのが、韓国・光州の現在と言えよう。
そのシンボルとなる、国立アジア文化殿堂、そしてオープニングイベント「ACT FESTIVAL」についてレポートしていく。

国立アジア文化殿堂のオープンは、2015年11月25日。

ここでは、美術だけでなく、音楽、デザイン、建築、映像・映画、パフォーミングアートといった多岐にわたったジャンルを網羅し、かつ、それらの展示・公演、作品収集、ワークショップやレクチャー、リサーチ、そしてアーカイブズ事業を行っていく。そのため施設は大きく分けても7つあり、敷地も建物の面積もアジアで一番大きな文化施設である。

美術で言う、キュレーターやインストーラー、レジスター、アーキビストのような専門職が各ジャンルにおり、かつ、監視員やボランティアスタッフといった人たちも働く。とてつもない巨大な文化施設なのだ。

日本では「美術館は墓場である」とか「建物に依存しない芸術のありかた」といった論議がなされて久しいが、このアジア文化殿堂はそういう見方をすることさえ「あほらしい」と思わせるほどの充実度を感じた。それはもしかしたら開館時だけのお祭り騒ぎなのかもしれないが、韓国という国を挙げて、芸術文化をきちんととらえ直し、検証するという場であることには間違いない。継続するのか、レベルは保つことができるのか、といった不安は、日本の美術館や文化施設でも同じことが言える話である。私が着目したい点は、他人の揚げ足を取ることではなく、先に述べた「アジアや世界各地のアーティストの展示や交流を図ろうとする」ことなのだ。

そこで私は、アジア国立文化殿堂のオープニングイベントである「ACT Festival」に行き、オープン初日にあったワークショップに参加することにした。

オープン当日に開かれた「1DAY Workshop」は、体育館のような巨大なスペースに、15を超えるワークショップを展開するというプログラム。いずれも10時半スタートで、17時に終わるという一日がかりの内容であった。主にメディアアートのアーティストが講師を務め、韓国人だけでなく、Rhizomatiksやスズキユウリといった日本人アーティストもいた、。私が参加したのは、IAMAS(情報科学芸術大学院大学)などに留学経験のあるキム・フニダ(Kim Hoonida)による回路をつかったワークショップ。

キムは、小さなオリジナルキットを参加者各自に与え、回路の基本であるデジタル信号0と1を分かりやすく解説しながら、キットをつかって音、光、そして動きを発するまでを参加者に体験させた。他のワークショップでは、パソコンのソフトやアプリケーションの応用で何かを制作するもの、レクチャー講師であるアーティストの制作をなぞるようなものなど、多様な内容であった。

キムは「世界各国の第一線で活躍する人たちが一堂に会し、ワークショップができてすごい」と話した。さらに「これまでも光州は『芸術の街』として活動してきた。そんな町にできた国立の施設、つまりここは国のお金で運営されている。国の組織や運営のしかたと、アーティストの活動や制作プロセスは異なるものなので、これからの兼ね合いがどうなるか難しいところもあるのでは」と警告を鳴らす。それは韓国だけの問題ではなく、どの国でも言えることであろう。国ないし自治体も、アーティストも、ある種のリスクを背負ったうえでこうした施設運営、プログラム構成を行っているが、国立アジア文化殿堂はスケールが大きいがゆえに、見えない不安がことさら大きいのかもしれない。

ここで注目すべき点は、参加者も韓国人(ドメスティック)に限らない、という点であろう。見るから西洋人やインド系の人たち、しゃべると「中国や香港から来ました」「オーストラリアに留学してます」というアジア人が、このクオリティの高いワークショップ内容と講師で集まってきていた。

展示会場も見てみよう。

展覧会は5つ開かれており、この写真「Plastics Myth」では、池田亮司、UJINO、野田凪といった日本人を含むアジア各国のアーティストの作品が、コンテナ状の空間にそれぞれ作品を展示している。立体的なサークルに作品を置くことは、もはやレイヤーで世界を見るのではなく、関係性のつながりやフラットさを感じさせる。空間全体を黒くおさめたことも、不気味さと未知の可能性の相反する感情を呼び起こす。

「The Vault – Image, perception, the alchemy of light」では、以前インタビューをした中西信洋も出品していた。していた。現地で会った中西は「作品を展示してそれを見るというだけでなく、僕ひとりで話すトークや、他の出品作家たちとシンポジウムをするなど、アーティストや研究者と観客の距離が近くなるようなプログラムが充実していて面白い。今回の展覧会はメディアアート系のアーティストが多く、その研究者も世界から集まってきているので、僕にとっても刺激的な内容である」と話していた。そう、この「ACT Festival」でのレクチャーやトークは、必ず英語と韓国語の翻訳がなされていた。また、作品や研究のプレゼンテーション方法はTEDとは言わないが、スライドや映像を多用し、話し手を身近に、より深く知ることができるものばかりだった。

最後に、この国立アジア文化殿堂の主要事業である「アーカイブズ」について紹介したい。

近年、美術業界でも「アーカイブズ」について言及されることが多い。アーカイブズはあくまで資料を集めること。その意味をもとに(事業としてスタートしたばかりということもあるが)、この国立アジア文化殿堂でのアーカイブズ部門はアジアに視点を定め、先に述べたジャンルごと、あるいは「展覧会の歴史」とか「アジアと植民地」といったテーマに分けた資料を集めている。さらにアーカイブズのプロジェクトスペースである「library park」では、書籍系資料の閲覧のみならず、例えば映像資料を見ることができたり、建築物の模型が並ぶ。国をあげてアジアの文化に貢献しようとする心意気が、このスペース(専門の建物)の大きさと資料の量からも伺える。

このように「国立アジア文化殿堂」はオープンし、オープニングイベントも無事に開催された。アジアは、陸地でつながるヨーロッパ諸国、大きな大陸であるアメリカや中国とは異なり、言語も国によって違う。政治や経済の事情を超えて、芸術文化でこのアジアを「つなげよう」とする試みを、日本人が得意とする「批判」ではなく、「どう協同するか」を考えていくべきだろう、と私は思った。

※「PORT JOURNEY YOKOHAMA」はスパイラル/株式会社ワコールアートセンターが企画運営しています

【概要】ACT FESTIVAL
【会場】アジア国立文化殿堂(韓国光州広域市)(りんく=http://actcenter.kr/)
【会期】2015(平成27)年11月25日(水)オープン
【公式サイト】http://actcenter.kr/programs/

Chisai Fujita

Chisai Fujita . Chisai Fujita 藤田千彩アートライター/アートジャーナリスト。1974年岡山県生まれ。玉川大学文学部芸術学科芸術文化専攻卒業後、某大手通信会社で社内報の編集業務を手掛ける。5年半のOL生活中に、ギャラリーや横浜トリエンナーレでアートボランティアを経験。2002年独立後、フリーランスでアートライター、編集に携わっている。これまで「ぴあ」「週刊SPA!」「美術手帖」など雑誌、「AllAbout」「artscape」などウェブサイトに、展覧会紹介、レビューやインタビューの執筆、書籍編集を行っている。2005年から「PEELER」を運営する(共同編集:野田利也)。鑑賞活動にも力を入れ、定期的にアートに関心の高い一般人と美術館やギャラリーをまわる「アート巡り」を開催している。また現代アートの現状やアートシーンを伝える・鑑賞する授業として、2011年度、2014年度、2015年度愛知県立芸術大学非常勤講師、2012年度京都精華大学非常勤講師、2016年度愛知県立芸術大学非常勤研究員、2014~ 2017年度大阪成蹊大学非常勤講師などを担当している。 写真 (C) Takuya Matsumi ≫ 他の記事

KABlogについて

Kansai Art Beatの運営チームにまつわるニュースをお伝えします。

Facebook

KABlogのそれぞれの記事は著者個人の文責によるものであり、その雇用主、Kansai Art Beat、NPO法人GADAGOの見解、意向を示すものではありません。

All content on this site is © their respective owner(s).
Kansai Art Beat (2004 - 2017) - About - Contact - Privacy - Terms of Use