アートブック: 体験する本 vol.2

梅田 蔦屋書店 写真コンシェルジュ 片岡俊さんへインタビュー

In KABからのお知らせ インタビュー by KAB Interns 2016-03-09

美術専門書、写真集、絵画作品集、展覧会図録、ファッション性の高い雑誌……。アートブックとは、「読む」ものではなく「体験する」本。それは私たちにとって、アートの入口の1つ、とも成りうるかもしれません。しかし、アートファン・文化的感度の高い人々の間では一般的な専門書店も、それ以外の方には、目に触れる機会は多くないのが現状です。このインタビュー記事では、個性豊かな取り揃えのある書店の方々にお話を伺い、「アートブック」を切り口に、お店の運営のあり方や特徴などを紹介していきます。第2回目は、梅田 蔦屋書店写真コンシェルジュ、片岡俊(かたおか しゅん)さんです。

―「写真コンシェルジュ」とはどういったお仕事なのでしょうか?

蔦屋書店には、ビジネス、文学、旅行、写真など、様々な分野ごとに専門の知識を持った「コンシェルジュ」がいます。書店員としての仕事に加え、よりお客様と関わることが出来る仕事だと思います。自分の担当している分野に興味のありそうな方でしたら、こちらから積極的に話しかけるようにしています。自然にお話しながら、本を介してお客様と密な時間を過ごすことができる。これが僕が仕事をしていて一番楽しい時間でもありますね。「コンシェルジュ」として、「こんな本がほしい」と思っている方に「道しるべ」となれるような存在でありたいと思っています。

―店内での写真の展示なども行われているようですね。

写真コンシェルジュは、写真集のみならず、写真にかかわることすべてが仕事です。店舗のオープンを迎えるに当たって、お店に飾る写真の選別や、ギャラリーとのやり取りなどは大変でしたが、コンシェルジュとして写真を扱っていく上でよい経験になったと思います。アップル正規サービスプロバイダでの展示は3か月周期で入れ替えがあります。今までに有元伸也さん赤鹿麻耶さん高崎紗弥香さん、そして、現在展示頂いている倉谷卓さんの作品を展示してきました。また鈴木崇さんには、大阪をテーマにしたオリジナル作品を作っていただきました。蔦屋書店と作家さんの「共同作品」をつくり上げるコミッションワークもできたので、面白かったですね。

―本棚には魅力的な作品集がたくさんあります。どういった方法で仕入れをされているのでしょうか。

取次を通した仕入れが基本です。けれど、当店の場合は出版社や作家さんからの直取引も多いですね。もともとあった枠組みに加えて、コンシェルジュが切り開いていく領域から本棚がつくられていきます。一つの本屋の中に「写真」「アート」「旅行」「文学」など各ジャンルごとに個人商店のような要素がミックスされたお店、とも言えるかもしれないですね。

―アートブック(写真集)を扱う上で、大切にされていることはありますか?

多くの写真集を扱っていると「沢山は売れないけれどいい本」というのがやはりあるんです。でも、細かくそれらを仕入れていてもなかなか伝わらないということが分かってきたので、きちんと「提案できる棚」をつくっていきたいと思っています。いい本であっても、提案性がなければお客様の目に留まりにくいと実感しています。面陳(※1)をしておすすめしたい本を目立たせる、などの工夫も大切です。きちんと考えてつくった棚にはやはり動きがあるので、自分なりの棚をつくっていこうと思っています。

(※1) 面陳 : 書店で雑誌や本を棚に立て、背ではなく表紙を見せて陳列する売り方。

―「提案できる棚」。おもしろいですね。

はい。書店でイベントを開催しているので、そのテーマを基準に提案していこうと思っています。最近では、コンシェルジュが主体となったイベントがはじまっていて、先月は「旅」をテーマにしたイベントを開催しました。関連して、写真家の石川直樹さんの写真集を推していきました。

―具体的にどういったイベントなのでしょうか。

コンシェルジュが「旅」というテーマで9冊ほど写真集を選び、紹介するというものです。このイベントの魅力は、トークが終わった後もお客様と話すことができることです。もともと写真に興味のある方はもちろん、そうでなかった方も、僕の話をきっかけに写真に興味を持って下さることもあります。また、自分自身にとっても、写真集を見返して考える良い機会になります。

―海外と日本の作品集で違いはあるのでしょうか?

海外と日本というよりは、出版社によって個性がでるのではないかと思います。例えばMACKというイギリスの出版社から出されている写真集は、一塊にしてみると共通点があるような気がします。
ドイツの出版社STEIDLは、本自体の形に伝統美があると感じます。日本の赤々舎は、一冊ごとの個性を大切にしていると感じます。海外と日本というよりは、出版社ごとに見ていくと個性があると思います。

―片岡さんとアートブック(写真集)の出会いはどういったものだったのでしょうか。

デザインの専門学校に行っていた際に、仲の良かった先生から頂いた川内倫子さんの『AILA』という写真集がきっかけでした。そのあとは、その年代の作家さんである佐内正史さん大橋仁さんなどを見ていましたね。周りで一眼レフカメラのブームがあったこともあり、自分自身でも写真を撮り始め、それから自分で写真集を買うようになりました。2015年一年間での写真集の購入冊数は、20~30冊程度ありました。

―どういったご経歴で「写真コンシェルジュ」になられたのでしょうか。

専門学校卒業後はデザイン関係の仕事をしていました。僕の興味のあったグラフィックデザイナーである中島英樹さんは、写真集もよく作っている方だったので、意識はせずに、元々写真に触れる機会は多かったかもしれません。その後は、写真集専門の図書館で働き、現在に至ります。


―今後の展望をお聞かせください。

やはり、これからもずっと写真にかかわっていたいと思います。写真コンシェルジュになってみて、「蔦屋書店」というお店自体の面白さに気づき、やりがいを感じています。自分自身も作品をつくっているので、作家活動も同時に並行しておこなっていきたいです。作品作りをするうえでも、とても良い環境だと感じています。

―最後に、おすすめの本を教えて下さい。

SLANTという日本の出版社から出ている石川直樹さんの写真集です。この写真集は、作家と出版社・デザイナーが良いコミュニケーションをとれているように感じます。石川さんは、ヒマラヤの山脈に登り、それぞれの山の写真を「登頂記録」のような形で写真集に残しています。撮影された数多くの写真の中から厳選し、簡潔なテキストが載せられています。本の大きさと写真の大きさがとても合っている点など、一つの旅の記録としてもいい本です。僕はあまり写真集を見返したりしないのですが、このシリーズはふと見返したくなりますね。

< Kei あとがき >

「写真コンシェルジュ」は、書店員としてのお仕事に加え、展示のキュレーションや、作家とのコミッションワーク、イベントの企画・運営など、幅広く「写真」に関わっていくことのできる仕事であることが分かりました。
提案性を持って本を紹介していくという点で、イベントは来店者に直接本の魅力を伝えることのできる機会となります。またイベントのテーマごとに、おすすめの本を選び本棚にレイアウトされているようです。

仕入れ方法については、一般的な本屋さんと違い、取次(※2)を通さない直取引も多いことが分かりました。コンシェルジュによって切り開いていく領域から、個性のある本棚がつくられていくようです。
「自分なりの棚をつくっていきたい」と語って下さった片岡さん。今回のインタビューでは、大きな本屋さんの中で、どのようにして専門性の高さを追及してゆくのか、という仕掛けを垣間見ることができました。

(※2) 取次: 出版取次の略称。卸売問屋として本の流通業務に携わる会社のこと。出版社と書店の間をつなぎ、物流、返品処理 、商品管理、需給調節など幅広い業務を請け負う流通業者。

アートブック: 体験する本 vol.1はこちら

取材先梅田 蔦屋書店
大阪市北区梅田3-1-3 ルクア イーレ9F

[KABインターン]
眞鍋渓 (まなべ けい):大学3年生。愛媛からやって来た。スイスのアートプロジェクトへ参加したことをきっかけに、芸術の世界に興味を持ち始める。現在、Kansai Art Beatのインターン生として、アートに関わる仕事に就けるよう模索中。忍者文字が少しだけ書ける。

[インターンプロジェクト]
本企画はKansai Art Beat(以下略KAB)において、将来の関西のアートシーンを担う人材育成を目的とするインターンプロジェクトの一環です。インターンは六ヶ月の期間中にプロジェクトを企画し、KABのメディアを通して発信しています。

KAB Interns

KAB Interns . 学生からキャリアのある人まで、KABの理念に触発されて多くの人達が参加しています。2名からなるチームを6ヶ月毎に結成、KABの中核といえる膨大なアート情報を相手に日々奮闘中!業務の傍ら、「課外活動」として各々のプロジェクトにも取り組んでいます。そのほんの一部を、KABlogでも発信していきます。 ≫ 他の記事

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