近いようで遠い台湾カルチャー!vol.2

地方でのエンターテイメント “移動電子舞台車”

In KABからのお知らせ 特集記事 by KAB Interns 2016-10-05

先日、美術作家・演出家、やなぎみわ演出によるデコトラ演劇『日輪の翼』が大阪の名村造船所跡地で上演されました。上演に使われたトレーラーから改装された「移動舞台車」が、大型美術作品として話題になりました。

ネオンや艶やかな原色の色彩に彩られたステージ上で、ポールダンスやアップテンポな曲に合わせた踊りや歌のパフォーマンスが行われる移動舞台車は、台湾のエンターテイメントです。そのステージは、台湾人である私が見るとごく一般的な色が使われています。基本的に都市部ではなく地方を巡業し、地方の人々には欠かせない台湾のナイトカルチャーです。

Vol.2では、移動舞台車の歴史を紹介したいと思います。

移動舞台車の起源は、中国の藝閣(イグ)文化です。
藝閣(イグ)とは、お寺の前の広場や、街中で繰り広げられる伝統的な動く劇場です。

昔は人力で担がれたり、リアカーで引っ張られていましが、時代とともに進化し、今では自動車で動かしています。現在は伝統芸能として、特別な祭礼でしか見ることができなくなりました。

「電子花車」文化

伝統文化の藝閣から、現代人のニーズに合わせて現われたのは、電飾で派手に飾ったステージ付きのトラック、電子花車です。最近地方でよく見られる電子舞台車が開発される前の舞台車です。最初に登場した時は、藝閣(イグ)の芝居を演じる女性だけ伝統的なものでしたが、観衆のさまざまな要望に応じて内容が変化しています。

電子花車が催されるのは、主に葬儀、宗教関連のイベントです。葬儀の際に、踊り子は喪主に代わって「孝女」(泣き女)という役を演じます。孝女(泣き女)は告別式の間中泣き続け、悲しいムードを演出します。出棺が始まると、電子花車で列に加わり悲しい歌を泣きながら歌い、火葬場まで故人を見送るのです。
お葬式以外の祭事の時は、夜、電子花車に乗った歌い手が流行歌を歌って練り歩きます。車の後方の人たちにもよく見えるように、手すりに身を乗り出してサービスしたりします。

1980年代の経済成長に伴って、女性の服の露出がふえ、今では「電子花車」はセクシーな女性によるナイトパフォーマンスを象徴しています。

移動舞台車

80年代、「電子花車」は葬儀と宗教イベントの場合だけではなく、結婚式、宴会などのお祝い事に使われるようになります。

舞台車の始祖・張吉泉さんは20年かけて移動舞台車を開発しました。ステージはより広くなり、電飾も現代的なものを使用し、パフォーマンスの内容も歌とダンス以外に、マジック、ストリップ、ポールダンスなどの出し物を披露します。
しかし、性的な露出を強調したものが多く、男性の支持は多いものの、批判も少なくありません。それでも現代でも廃れることなく、顧客のニーズに対応し、台湾の特殊な文化として、地方に深く根付いています。

地方都市の夜闇の中に、ネオンと艶やかな色で飾ったステージが、突如として出現します。そして、セクシーな女性が踊り、歌を唄い、まぶしいライトとアップテンポの音楽のステージが、一夜限りの夢として繰り広げられるのです。

写真家の沈昭良(Shen Chao-Liang)はその魅力を写真にとらえました。やなぎみわ、沈昭良など、海外と台湾のアーティストたちの注目を集めたことで、移動舞台車は、過去のネガティブな風俗的イメージから、台湾を代表する特殊な文化であると、台湾の中で認識されるようになりました。
現在、移動舞台車はバンドのライブパフォーマンスや、選挙活動の街頭演説に使われるなど、多様な用途で使われています。

[Isei あとがき]

現代ではインターネットを通じて、海外情報や文化に簡単にふれることができます。そういった中、台湾人も自分達の文化的な独自性とは何かを考えてきました。
台湾の歴史を見ると、1600年代にオランダとスペインに占領された後、中国明清政府、大日本帝国の統治と教育を受け、1945年にもう一度、中華民国・南京国民政府になりました。様々な民族、文化、言語、風習が混ざる歴史を背景に育った台湾人は、昔から自らのルーツを巡るアイデンティティに迷っています。

台湾の若者が海外に行くと、「台湾の文化」と「中国との関係」についてよく聞かれます。また、安くて美味しいB級グルメで有名な「夜市」以外に、台湾でしか見れないものはありますか? 台湾人なのになぜ中国語が母語ですか?など質問されることで、自分を育てた国についてもっと詳しく知りたくなりました。
現在台湾でもレトロブームが起こり、風習、文化、建築、伝統芸能などが、再評価され、注目されるようになりました。この動向によって、台湾人が独自の「台湾らしさ」を発見し、自信を持って新しい文化を発展させていくことを期待しています。

●近いようで遠い台湾カルチャー! Vol.1はこちら

[KABインターン]
陳 怡静 (Isei) : 交換留学生として京都で日本語や文化を学んでいる台湾人学生。好奇心の赴くがまま、ドラマや映画の撮影スポットに足を運ぶフットワークの軽さが自慢。浴衣の着付けもでき、日本人より日本の伝統文化やサブカルチャーまで幅広い知識と興味を持つ。

[インターンプロジェクト]
本企画はKansai Art Beat(以下略KAB)において、将来の関西のアートシーンを担う人材育成を目的とするインターンプロジェクトの一環です。インターンは六ヶ月の期間中にプロジェクトを企画し、KABのメディアを通して発信しています。

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