FESTART OSAKA 2017

春の大阪でアートマップを片手にギャラリー巡り

poster for Yugo Korogi 2012–2016

「興梠優護 2012-2016」

大阪市西区エリアにある
Yoshimi Artsにて
このイベントは終了しました。 - (2017-04-03 - 2017-04-23)

poster for Haruka Kasai “Far in the Distance”

笠井遥「-彼方へ-」

大阪市中央区エリアにある
Nii Fine Artsにて
このイベントは終了しました。 - (2017-03-31 - 2017-04-16)

In トップ記事小 レビュー by Atsuko Nomura 2017-04-10

2017年4月3日(月)から4月15日(土)までの2週間、大阪の西天満、肥後橋、淀屋橋、北浜を中心としたエリアにおいて、『フェスタアート大阪』が開催されている。『フェスタアート大阪』は、現代美術、工芸、古美術など、ジャンルの垣根を超えた20軒のギャラリー有志によるアートウィークイベントである。その中から注目する2つの展覧会、Yoshimi Artsの『興梠優護 2012-2016』展と、Nii Fine Artsの『笠井遥 -彼方へ-』展を紹介する。

興梠優護 2012-2016|Yoshimi Arts
 

Yoshimi Artsでの個展は4回目となる興梠優護(こうろぎゆうご)。本展では2012年から2016年までの作品約10点が展示されている。人間の身体が水や煙のような流動体に溶けて輪郭を失うような表現が、独特のとろみやかすみを感じさせる。その作風は一貫しつつ、本展は作品ごとに色彩や技法が少しずつ遷移している様子がよくわかる展示構成となっている。

興梠によれば、彼の描き方の変遷は、描かれた時期によって明確に分かれるというよりも、いくつかのシリーズによって分けることができるという。例えば、「□シリーズ」は、主に口(くち)をモチーフとしており、口内の粘膜の赤さが生々しく描かれている。また、最新のシリーズである「/シリーズ」は、/(スラッシュ)を支える構造としての造形の複雑さが際立った作品群となっている。

本展で過去の作品を久しぶりに見たという興梠は、描いているときに気づかなかった自らの作品の特徴に新鮮な驚きを感じる、と話す。東京、ロンドン、ベルリンなど、制作拠点を変えながら描き続けてきたが、環境や時間の変化によって作品が影響を受けていることに、後から気づいたという。

普段の生活で見過ごしがちなあいまいなもの、光や空気のように不定形に揺らぐものを、興梠は透徹した瞳で捉え、キャンバスにとどめようとする。目と手が描いたものに遅延して、彼は自分が描きたかったもののイメージを発見する。自分の意図を超えた豊かな表現が現前するという、描くものと描かれたものとのこうした関係は、おそらく「絵画」というメディアに対して興梠が見出す際限のない可能性の豊饒さに基づいているのではないだろうか。

言葉や論理が先行しがちなこの時代において、興梠の作品は、私たちが自らの美的感覚を更新せざるを得ないような魅力で観客を誘惑する。観客は彼の絵画に接して、今まで知らなかった新たな視覚の喜びに触れるという、きわめて創造的な経験をする。それは、美術を鑑賞する愉しみのうち、最も情緒的で、最も言語の媒介が少ないもののひとつであり、自らの感受性が作品の前で一旦開放されて再編成されるという内的な更新体験によって、最も贅沢なものにもなりえていると言えるだろう。

笠井遥 -彼方へ-|Nii Fine Arts

「彼方へ」と題された本展において、笠井遥は「無常のその向こう」を描きたかったという。Nii Fine Artsでは初となる個展に際して彼女が選んだのは、たんぽぽの綿毛というモチーフだった。

「これまでは枯れたものばかりを描いていました。でも、これからはその先の芽吹きを描きたいと思ったんです」と笠井は語る。

たんぽぽの綿毛は、そのひとつひとつが種を持って、風に吹かれて飛んでいく。新しい命への希望そのものでありながらも、どこに飛んでゆくかは選ぶことができず、また、そのすべてが芽吹くわけでもない。行雲流水という言葉に表されるような自然の営みに逆らわず空に舞う綿毛に、笠井は人間の命を重ねている。

そのような自然観、人間観は、彼女が学んできた日本画の精神論を受け継いでいる。最初に日本画を選んだ理由も、岩絵具という自然に近い素材が自分に合っていると感じたからであるという。

とはいえ、笠井の表現は、いわゆる伝統的な日本画という印象には収まらない。例えば、綿毛の描写の繊細さは、画面に緊張感と軽やかさをもたらしているが、この線描は筆ではなく、ボローニャ石膏の上からニードルで削って描いている。

また、本展で展示されている作品のうち、最新作の3点は、石膏の上に墨を霧吹きで吹きかけることで、やわらかな奥行きのある表面をつくっている。このように笠井は、作品がその主題に最もふさわしい姿となるよう、新たな技法に果敢に挑戦している。

ニードルで削る線は、下書きができない。また、筆圧によっても色みの出方が変わる。しかし笠井の線描には、ためらいや迷いがない。それは、彼女が芸術家として、確かな芯の強さを持っているからであろう。

「自分自身がぶれていると、表現が表面的になってしまう。それは作品を見た人に必ず見抜かれます」。穏やかな声でそう言った彼女の言葉が非常に印象的だった。命の終わりを見つめ続けた後に、新たな希望を見出した若き画家の、生の営みへの畏敬と慈愛がそこにはあった。

『フェスタアート大阪』の期間中、各ギャラリーはそれぞれ趣向を凝らした独自の企画展を開催している。普段は敷居が高いように思われる古美術店や、まだ訪れたことのないギャラリーも、『フェスタアート大阪』のアートマップを片手に気軽に扉を開いてみれば、快く迎えてくれるだろう。すべての会場は徒歩圏内にあるため、春の休日に中之島界隈のレトロな建築や川辺の公園を散歩しながら、ギャラリー巡りをしてみてはいかがだろうか。

【開催情報】
FESTART OSAKA 2017
http://www.festart.net/
会期:2017年4月3日(月) – 4月15日(土)
主催:フェスタアート大阪 実行委員会

■興梠優護 2012-2016|Yoshimi Arts
会期:2017年4月3日(月) – 23日(日)
開廊時間:11:00-19:00 
休廊日:火・水
住所:〒550-0002 大阪市西区江戸堀1-8-24 若狭ビル3F
http://www.yoshimiarts.com/home.html

■笠井遥 -彼方へ-|Nii Fine Arts
会期:2017年3月31日(金) – 4月16日(日)
開廊時間:11:00-19:00(日曜日-17:00) 
休廊日:会期中無休
住所:〒541-0043 大阪市中央区高麗橋2-3-9 星和高麗橋ビルB1
http://www.niifinearts.com/

Atsuko Nomura

Atsuko Nomura . 野村敦子|1983年奈良県生まれ。京都大学大学院人間・環境学研究科修士課程修了。現代美術に関する企画、執筆、翻訳等を行っている。美術作品と美術家がどのように価値付けられ、美術史がどのように形成されてゆくのか、また現代美術に関わる経済システムには今後どのような可能性があるのかなど、美術と経済の問題について関心を抱いている。 ≫ 他の記事

KABlogについて

Kansai Art Beatの運営チームにまつわるニュースをお伝えします。

Facebook

KABlogのそれぞれの記事は著者個人の文責によるものであり、その雇用主、Kansai Art Beat、NPO法人GADAGOの見解、意向を示すものではありません。

All content on this site is © their respective owner(s).
Kansai Art Beat (2004 - 2024) - About - Contact - Privacy - Terms of Use