京都市営地下鉄に乗った時、とても印象に残る作品の展覧会ポスターを見た。それがこの「リン/テン」展、水をすくう両手がくり抜かれたような立体作品の写真に、誰もがどきっとさせられるだろう。
この展覧会は、京セラの「ファインセラミックス」を知った陶芸家の上田順平が、新しいやきものに挑戦したい、ということから企画されたものだ。
「京セラ」と聞くと、京都が誇る世界レベルの大企業のひとつ、と誰もが認識しているであろう。その本社ビル1階にある京セラ美術館は、これまでコレクション作品や近世の京都に関する展覧会を開いてきた。今回の「リン/テン」展は、京セラ美術館初の現代美術(あるいは現代陶芸)の展覧会である。
展覧会場は、私なりの言い方をすれば「茶色の部屋」と「白い部屋」に分かれている。「茶色の部屋」には、ポスターにあった作品など、いくつもの作品が置かれている。
会場に展開しているインスタレーション作品《ホウ/イ》は、実に面白い。ポスターにあった両手は、陶土の台がへこんだ凹型になっている。その陶土の台からくり抜かれた手(凸型)は、焼くとだいたい15パーセント縮む(小さくなる)。その焼きあがった手(凸型)を、新たな陶土の台に押し込んでへこませる。そのへこみ(凹型)を型に取り、新たな凸型を作り、また焼く。縮み、小さくなった凸型を、また新たな陶土の台に押し込んで・・・・・・を、25回(!)繰り返したものが、茶色の部屋にインスタレーション作品として置かれているのだ。ちなみに最後の25回目、米粒サイズになった凸型だけはファインセラミックスが使われている。
なお、ファインセラミックスについては、美術館と同じ本社ビルの2階にファインセラミックス館で、詳しい説明がなされているので、あわせて見てほしい。
「白い部屋」では、ファインセラミックスをどう見せるか、に挑戦している。この写真のように床の一区画と同じサイズにつくられたもの、キャンバスに見立てたもの、日本家屋の屋根と同じ傾度で置かれたものなど、多様な見せ方が取られている。普段私たちが意識することがないファインセラミックス、あるいは世の中にある素材すべてが「あなた、見えてますか?」と私たちに問い掛けているようだった。
個人的には、このガラスの作品と、その隣に置かれた同じ型の氷の作品が印象的だった。取材中にも氷はどんどん溶けていき、照明を受けてガラスは輝いていた。土を掘ると古い土器が見つかるように、陶には保存性があるが、氷は水となりやがて蒸発していく。キラキラと光るガラスは、そんな氷の運命をあざ笑うようにも見えるが、氷はそんなことも知らないで消えていく。
この展覧会は、実は骨太で、上田順平というアーティストやファインセラミックスなど素材の紹介にとどまっていない。作品を制作すること、見せること、見ることとそこからの想像力、といったことを楽しみながら、考えたり、いろんな角度でつかむことができる。そんな奥が深い展覧会を、私は久しぶりに見た気がして、とてもうれしくなった。
【展覧会名】リン/テン -ファインセラミックスと芸術の交感
【会場】京セラ美術館
【会期】2017(平成29)年6月9日(金)~7月9日(日)※会期中無休
【公式サイト】http://www.kyocera.co.jp/company/csr/facility/museum/exhibition/rinten2017.html