「作家」として生きる20代の表現者たち

木原結花さんにインタビュー

In KABからのお知らせ 特集記事 by KAB Interns 2017-08-28

芸術大学で学ぶ人々が、卒業後に選ぶ道のひとつとして「作家」があります。20代の多くの作家はキャリアの短さなどから、メディアでの露出がほとんどない状況です。しかしまだ無名であったとしても、良い作品をつくり続け、精力的に活動している作家は多く存在します。

この記事では、20代の作家の方々にお話をうかがいました。彼らの生の声を紹介し、作品の魅力や活動の悩み、そして作家としての展望などをお伝えします。

今回の取材場所はあまらぶアートラボ A-Lab。2017年5月27日~7月17日まで開催されていた「A-Lab Artist Gate 2017」に出展していた作家さんにお話をうかがいました。第1回目の記事はこちら

第2回目は木原結花さん。大阪芸術大学写真学科を卒業後は同大学の院に進学し、制作を続けられています。普段の制作過程を尋ねてみると、さまざまな葛藤や苦闘とともに作品が生まれている姿を目の当たりにしました。作品と共に、彼女の作家活動をご紹介します。

ー作品制作を始めたきっかけを教えてください。

高校の美術の先生がすごくいい人で、頻繁に美術準備室へ遊びに行ってました。その先生は写真じゃない分野で制作されてたんですけど、芸術の話とか、芸大の話とかけっこうしてくれはって。すごいおもしろそうやなあって思ってました。
あと、高二の春休みに家族旅行で愛知県の豊田市美術館に行きまして。当時たまたま、山本糾という写真家が展示していて、そのときに初めて「写真って美術になるんや」と知りました。美術の先生に話を聞いたら、いろいろ教えてくれはったんですよ。こういう写真家がおって、ああいう人がおってみたいな。それで私もそういうのやってみたいな、と。

ーそこから写真を撮影するようになったんですね。

そうですね。観に行って帰ってきたら、さっそくお年玉貯金でカメラを買いました。ちっちゃくて安いカメラやったんですけど、いろいろ撮り始めました。

ー今回、展示されている作品の説明をお願いします。まずは『行旅死亡人(こうりょしぼうにん)』という作品から。

行旅死亡人(※1)という身元不明の遺体の情報から、どういう人やったかっていうのを想像して、コラージュで一枚のポートレートの記念写真をつくった作品です。やっぱり寂しいものじゃないですか。亡くなって自分の名前も出ないし、最終的には無縁仏とかに処理されたりしてしまう人で、他人事ではないなと感じたりもして。ちょっとでも、その人たちのアイデンティティを考えるきっかけにできたらなって。
(※1)行旅死亡人 : 行き倒れている人の身分を表す法律上の呼称。本人の氏名または本籍地・住所などが判明せず、遺体の引き取り手がいない死者を指す。発見された際には、死亡推定日時・発見場所・所持品・外見などの情報を記録し、発見された市町村名義で官報に公告掲載される。

ー行旅死亡人の存在を知ったきっかけというのは?

大学のゼミの先生から『アノニマスケイプ こんにちは二十世紀』という写真集を見せてもらったのが、きっかけです。行旅死亡人の記事の複写と、路上の風景とか、何気ないスナップ写真を両方見せてるっていうのがあって。そこで「行旅死亡人っていう存在がいるんだな」っていうのを知って調べたら、ホームレスの人とか多いんだなって思ったり。
実は小さい頃に、ホームレスの人と仲良くなったことがありまして。小学校の夏休みのときに、昼になったら豆腐をもってきて食べ始めるおじさんがいて。子どもたちは「豆腐おじさん」って呼んでました。そのときにマルバツゲームして遊んでもらったり。でも、夏休みが終わったら昼間に公園は行かないじゃないですか。

ーそうですよね。

そしたらおじさんを見かけなくなって。翌年の夏休みになっても来なくなっちゃったんですよ。それで行旅死亡人でホームレスが多いって聞いたら「あのおじさんもホームレスやったんか」って。メガネかけてて、色黒やったってのは覚えてるんですけど、やっぱり顔は思い出せなくて。そのときに、もしかしたらおじさんも行旅死亡人になってしまったんじゃないかなと想像して。そういう人を思い出すようにじゃないですけど、人物をつくりあげてったらいいかなっていうのを思ったんですよね。

『行旅死亡人』はコラージュで制作されていますが、素材自体は既存のものですか?

そうですね。新聞の写真とかチラシの写真とか、インターネットで探してきたりとか。私たちが想像したり考えるときって、今まで見てきたものからじゃないと、思い出せないんじゃないかなと思って。なので、元からあるイメージから引っ張ってつくっています。

ー人物像からは、どこかキャラクターのような愛らしい印象を受けました。

(行旅死亡人は)闇の部分じゃないですか。でも、闇っぽくしたくなかったというか。本当にごく一般の人のポートレイトにしたかったんですよ。実際はごく一般のひとばかりじゃなくて、大変な人たちだったとは思うんですけど、それでもそうしたかったんですよね。

ーなるほど。あと気になったのが、着色がコーヒーというところなんですが…

それは…いま考えたらあんまよくなかったんじゃないかなと思ってて。一応、「その当時撮った写真で、月日が流れていま発見されたらこんな汚れてたやろうな」と想像して着色したんですけど。そういうのは一切せずに、そのままのイメージで勝負したらよかったなって思いました。いまもあの作品にはしっくりきてなくって。うーん、もやもやする。

ーほかにも今回は『服』という新作のシリーズを発表されていますよね。

あれも納得はしていなくて。なんか新作をつくろうって意気込んだんですけど、最後の最後まで絶対これやばいわって。先生に「やっぱりやめていいですか」とかって(笑)。なんか足りないし、なんか違うってなるんですね。はじめパッと思いたったときは、「これやれる!」ってなるんですけど。

ーなるほど。新作はどのようにして制作されたんですか?

あの服は海で拾ってきたんですよ。漂流物を探しに、京都の舞鶴まで行きました。そこで探してきて、このサイズだったらこういう感じの人で、これくらいの身長で、こういう顔だったんじゃないかなって想像して、顔写真をコラージュでつくって、服と一緒に展示しました。

ー『行旅死亡人』は言葉から、『服』はモノから、人物像を描かれているということですね。ちなみにアイディアが浮かぶ段階っていうのはどういう感じなんですか?

視覚でポンって出ます。視覚だから見える形にするじゃないですか。そしたらなんか違うってなるんですね。コンセプト自体は納得できたり、自分の過去とかに結びつけれたりとかするんですけど。展示にした途端に急にテンションが下がっちゃうんですね…。

ー今までもそういう傾向ですか?

ずっとそうですね…!展示しなくてもつくるじゃないですか。つくって、見て、もう無理やと思ったらすぐ捨てちゃうんですよ。

ー情緒的ですね!作品自体がコンセプチュアルなので、冷静なイメージをもっていました。

そうしよう、って思ってるんです。本当は考えるのすごく苦手なんですよ。なんか考えてたら頭痛くなるし、熱でてくるし(笑)。けっこう感情的で、衝動的なんですけど。でもやっぱりそれだけじゃダメじゃないですか。冷静にまとめないといけないんで。そこはがんばって客観的にしようと意識しています。

ー大学院を卒業してからの展望などはありますか?

やっぱり制作は続けていきたいんですけど、どうやったらいいかなと思いますね。やり方もいろいろあると思うんですけど。

ー就職を考えたりもしますか?

しないといけないなあ…でも、したくないんですけどね。お金のために働かないといけないなあと、思うんですけど。

ー就職をしても作品づくりは続けたいということでしょうか。

それは思いますね。作品づくりは絶対どんなかたちであれ、続けていきたいと思ってます。

ー今後こんな作品を制作していきたい、というイメージはありますか?

ありますね。ちょうど映像作品をつくり始めてるんですよ。一応、修士までにはつくり終えたいなとは決めてるんですけど、そこよりも長くなるだろうなっていう感覚もありますね。
あとは、「行旅死亡人」をもう少しちゃんとやりたいです。身元不明で亡くなった人を、ずっと思って心の中に入れて考えていきたいっていう気持ちは衝動的なものなので、たぶん一生続けるテーマではあるんだろうなって思いますね。

<インタビューを終えて>

「制作では、めちゃくちゃ落ちやすいタイプです」という木原さん。
コンセプチュアルな作風から、ご本人に対してもクールな印象をもっていましたが、制作過程では衝動的な一面があると聞いて驚きました。

今回のインタビューでは、作品の魅力だけではなく、作家の「生みの苦しみ」を目の当たりにしました。なにかをつくる人であれば、苦悩の波に飲まれそうになった経験が一度はあるかと思います。
木原さんの場合は、葛藤しながらも客観性を意識すると話されていました。制作においての波とどのような距離感で付き合っていくのかは、どの作家にも共通する問題ではないでしょうか。
そして、「衝動的な要素が強い」と言っていた『行旅死亡人』のシリーズは、自身の過去の経験との結びつきがとても印象的でした。
社会の中にある闇の要素を、社会批判的な視点であぶり出すのではなく「その人を蘇らせて、見た人と対面させたい」という思いが根底にあることが、作品の大きな魅力なのではないでしょうか。会ったこともない、名前も知らない、でもどこか愛らしい印象の「その人」に思いを馳せるひとときでした。

取材先:あまらぶアートラボ A-Lab
〒660-0805 兵庫県尼崎市西長洲町2-33-1

<KABインターン>
中 三加子:関西の芸術大学を卒業後、KABのインターン生になる。情報発信に興味があり、「編集」の仕事に携われるように模索中。同世代の作家が気になる。


[インターンプロジェクト]
本企画はKansai Art Beat(以下略KAB)において、将来の関西のアートシーンを担う人材育成を目的とするインターンプロジェクトの一環です。インターンは六ヶ月の期間中にプロジェクトを企画し、KABのメディアを通して発信しています
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