小出麻代 「空のうえ 水のした 七色のはじまり」
大阪府(その他)エリアにある
the three konohanaにて
このイベントは終了しました。 - (2014-06-06 - 2014-07-20)
ギャラリーの魅力は、そこで行われる展覧会だけではありません。空間のつくられ方やオープンまでのエピソードなど、普段はあまり着目しないギャラリーの別の魅力にも、目を向けてみてはいかがでしょうか。
今回紹介するthe three konohanaは、もともと臨海工業地として知られる大阪市此花区にあるギャラリー。かつては、海運業関連の仕事に従事する労働者の町として栄えたエリアにあって、「この場所だからこそ」足を運んでくれる人のために、独特な展示空間を活かして作家の展示力を丁寧に伝える展覧会を定期的に開催しています。
「どれだけのギャラリーをめぐるか」ではなく、「どこのギャラリーで何を見るか」
the three konohanaを運営する山中俊広さんは、大阪は西天満にある現代美術のギャラリーYOD Galleryから独立。当初からコマーシャルギャラリーを運営しようと意識する中で選んだのが此花というエリアでした。産業構造の変化に伴う過疎化と住民の高齢化によって空き家が目立ってきた界隈に新しく生まれた、此花メヂア(2013年6月閉鎖)、梅香堂(2014年1月閉堂)といったスペースを起点に、2000年代後半からアートエリアとしても盛り上がりを見せていました。
これまでの現場経験の中で山中さんは、「ギャラリーに行く(展示を見に行く)」来場者の目的意識を深めていく必要があると思うようになりました。「どれだけの数のギャラリーをめぐるか」ではなく「どこのギャラリーで何を見るか」が大切ではないかと。そこで山中さんは、ギャラリー密集地から離れた此花で、「この場所にこそ来よう」と思ってくれる方に展示を届けることをはじめます。
「the three konohana」という名前に込めた山中さんの考えは、こちらを参照。
http://thethree.net/category/about
ホワイトキューブと和室の展示空間が、執務空間を挟んでいる
the three konohanaが入る建物は元不動産屋のオフィス。平屋建ての長屋に増築した二階部分が、現在のギャラリースペースです。外観はかつてのおもむきを残し、二階に上がってホワイトキューブを抜け、同じく展示空間として使用されている和室へと至る、特徴的な内部空間。
この空間を山中さんと設計したのが、大阪を拠点とする建築家NO ARCHITECTS、そして施工に関わったのが、この場所を推薦したPOS建築観察設計研究所の大川輝さんでした。
木造にもかかわらず、二階屋根裏の梁(横材)に鉄骨が使われており、ホワイトキューブには柱が一本もありません。そのため、フラットな壁面が長く伸びた展示空間が生まれています。一方、単なる白壁の囲いという趣を崩すかのように、そのまま残されたかつての窓がこの空間にアクセントを添えています。
ホワイトキューブの奥に位置する和室空間は、手をいれずにほぼそのまま。和室の奥の扉を開けると、裏通りから子どもの遊ぶ声が聞こえてきます。ホワイトキューブと和室の間に山中さんの執務空間があるという特徴的な空間の構成によって、来場者はこの二つの展示空間を行き来し、山中さんと話しながら、じっくりと展示に入り込むことができます。
作品をつくるまでがフィニッシュではなく、それをどこに置くかまでがフィニッシュ
ここで展示を行う作家には「ここで成立する展示を行うだけの力量」が試されます。このユニークな空間づくりは、かつてから山中さんが重視してきた、「展示力」というテーマに裏付けられたもの。
「ホワイトキューブと和室、対照的な双方の展示室を使ってもらうことを展示の前提にしていますので、おのずと展示力のある作家を優先的に選ばざるを得なくなっています。ホワイトキューブは余計なものがない空間であるという前提なので、作品そのものの強さが問われる展示となります。一方で和室の方は完全に生活用の構造になっているので、襖や窓やガラス戸そしてベランダなど、余計なものに溢れた空間の中で、どうホワイトキューブとも関連性を持たせて展示をするかが問われます。」
ここで言う「展示力」とは、「そこに作品が置かれる必然性」をどれだけ意識できるか、ということ。場所の意味をどれだけ読み取ることができるか? 配置する作品と作品の関係性をどのように組み立てるのか?正解がいくつもある中、ひとつひとつの作品によって、展示の「起承転結」を伝える力が、「展示力」として現れます。
「最近ではさまざまな発表場所が増えているため、作品をつくるまでがフィニッシュではなく、それをどこに置くかまでがフィニッシュになる。」「展示力」に重きを置くという方針は、アートをめぐる現状に対する山中さんの向き合い方によるものなのです。
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「一緒に展覧会をつくった作家が100年後の教科書に載ること」を究極の目的に据える山中さんは、アートを鑑賞するために知識は必要ありません。ただし、思考することと想像することは鑑賞の大前提として持っていてほしい、と語ります。「答えを急がず、ものから何かを想像してくれる」方のために、定期的に展覧会を届け続けます。
取材時は小出麻代「空のうえ 水のした 七色のはじまり」展が開催(7月20日まで)、9月5日から10月19日までは、このスペースを設計したNO ARCHITECTSの展覧会が開催されます。
文・写真・スケッチ:榊原