変わりゆく台湾のいま

アートにおいても「新しい/次の」は生まれるのか

In 特集記事 by Chisai Fujita 2016-01-24

日本のニュースでもご存知の通り、2016年1月に行われた台湾の総統選挙で民進党が勝利し、新総統に蔡英文が選ばれた。私はこの選挙が行われる1か月ほど前に、台湾へ行った。右の写真は、台南市のギャラリーをまわる途中にあった、選挙事務所での記念写真である。







■台南市

その台南市や首都である台北市に限らず、台湾の大きな都市には美術館やアートセンターがたいていある。特急の停車駅である台南駅の近くには、「台南文化創意産業園区」というアートセンターがあった。入ってみると、大阪府立江之子島文化芸術創造センターぐらいの敷地に、展覧会場、音楽やレクチャーのホール、デザインや建築関連のショールームなどがあり、工芸品を販売するショップもあった。

台南市には、国立台南美術大学、坂茂が新しい建物を設計している台南市美術館、神殿のような奇美美術館、さらにはいくつものコマーシャルギャラリーやアーティストランスペースがあった。例えば「齁空間(Howl Space)」では、リサーチ系アーティストによるグループ展が「養生之道-二〇一五台南永福路二段冬季街区田野運動会」行われていた。展覧会のサブタイトルにもつかわれた「田野運動」は、漢字をそのまま英訳したフィールドワークという意味だけでなく、政治運動も指していた。文頭に書いたように、台湾は総統選挙、過去にはひまわり学生運動も起こっている。

画像にあるように、スペース入口に置かれた、棒を組んだ立体作品は、こうした政治活動をする際のバリケードを模していた。別の作家は「運動」を健康促進の意味にもとらえ、防護用の盾を手にした人たちがエクササイズする、というユーモアのある映像作品を見せていた。出品されていた作品で唯一つまらないなぁと私が思った作品は、危機感のない日本人作家のものだった。

■高雄市

台南市からさらに南部、アートフェア「アート高雄」が開かれる高雄市。関西空港から直通便のLCCが飛んでいる、台湾第2の都市である。
高雄市立美術館」へ行った。

私がびっくりしたのは、常設展に置かれた作家が70年代後半から90年代前半生まれ、ととても若いこと。だから作品形態(見せ方)やメディアが斬新で、平面や立体と映像を組み合わせたインスタレーション、モニターを額にはめこんだ映像、と幅が広い。それだけでなく、彼らの作品発表時期はアートフェアの隆盛期の2000年代、つまり作品には売れることを目的にしたキャッチ―さがある。だからこんな作品もあった。

言い方が悪いが、こういう面白い作品は、アートフェアで見る(販売される)ものであって、ミュージアムピースにはならない、と私は勝手に決めつけていた。しかし展示室に、私の偏見に反した作品ばかりが並んでいると、実はこれらが美術史や素材研究という学術的観点においても重要な作品ではないか、と私は心を入れ直すことにした。日本の美術館も、既成の価値づけや系統づけから外れるような、アートフェアで販売している作品の収集をどんどんしてほしいものである。

また高雄の湾岸エリアには「駁二芸術特区」という、港の倉庫群をリノベーションした文化ゾーンがある。

以前書いたシンガポールのギルマン・バラックスのように、郊外にギャラリーが集まっているのかと思いきや、ギャラリーは数軒だけ。画像にあるように、野外彫刻はいろいろなものを見ることができたが、施設の入居者の多くはクラフト系ショップであった。とはいえ、平日なのにたくさんの人出が見られて楽しめるこの場所は、一見の価値がある。

■台北市

台北市立美術館では「2015 TAIPEI ARTS AWARDS」が行われていた。高雄市立美術館の収蔵作家の年齢層が若くて驚いたが、このアワードの出品作家はさらに若く、多くは80年代後半から90年代前半生まれだった。彼らと74年生まれの私とでは、(日本でも感じていた)ある価値観が大きく異なる。具体的な例として、自動車のありかたが挙げられよう。

映像なども置かれた薄暗い空間には、20世紀を象徴する自動車が屑となっていた。崩れた躯体には、スポットライトさえ照らされていない。人々が持つあこがれや理想はもうない、という暗示であろうか。

さらに別の作品。

コンビニの中にルームランナーを置いて走る、といった現代のなまった生活スタイルをアイロニカルに表現したインスタレーションの一部として、へしゃげたビニールでつくられた自動車の作品《豊田》が置かれていた。夢の乗り物だったはずの自動車は、空気を運ぶようにごく当たり前のものとなった、と言いたいか。夢は簡単につぶれるよ、とでも言いたいのか。
他の作品を見ていても、私は「どきっ」とさせられるものばかりだった。個人的には彭奕軒(Yi-Hsuan PENG、1990年生まれ)の、ホワイトボードに描かれた風景画が印象的であった。ホワイトボードは画面いっぱいに描いたとしても、すぐに消すことができる。その一部が消されているさまを見て、私たち人間が自然に対して施してきた行為と重なり、人間が手を入れることと消すことの安易さ、その作為性/無意識に気付かされた。

台北市北部の西湖エリアでは、「大内藝術節」が開かれていた。簡単にいうと、このエリアにある約15のギャラリーをつないだマップをもとに、鑑賞者はギャラリーでの展示だけでなく、大型ショッピングセンターに置かれたアート作品も見て回るというもの。

台湾のアートといえば、カラフルなペインティング、人物画/人物像ばかりと思っていた私は、このエリアは回っておいてよかった。コンセプチュアルな作品を扱うギャラリーが多く、ASIA ART CENTERやゲーテアートセンターといった国際交流のスペース、ナム・ジュン・パイクの回顧展を見せるスペースもあって、とても見ごたえがあった。

最後に、今回なぜ台湾に行ったかというと、台北市立植物園にある日本家屋で、以前インタビューをした大崎のぶゆきらによる展覧会があったからである。

美術専門のスペースではないこと、地元台湾ではなく日本人であること。どれぐらい/どのように告知をしたのかは不明だが、会期初日に行ったときには、台湾の美術関係者というよりも、たまたま植物園を訪れた人たちが寄っていたようだった。これを機会に「展覧会とは、いったい誰に向けたものか」という疑問については、今後の私のテキストでも検討していきたい。

■まとめ

2015年12月現在における、台湾の主な都市ごとのアートシーンを眺めてみた。紹介していない美術館やギャラリー、アーティストランスペース、日本人にもなじみがあるアートフェアやアーティスト・イン・レジデンスも多い。結局その多くは、日本の多くのそれらも同じだが、自国(台湾なら台湾人、日本なら日本人)のアーティストの発表の場でしかないし、言葉/文字の壁により検索したくてもできない/出てこない(表示ができない)ため他国に広まらない、などの問題がある。

私たち日本人が(の)アートシーンをどうしていきたいのか、と考えるとき、身近で同じような問題点を抱える台湾は、非常に参考になる国である。2016年1月にあった台湾の政権交代によって、芸術文化がさらに明るく変化するかどうかは不明だが、芸術特区もアワードもない私たち日本のアートは、今のところ何も変わる必然も気配もない。アートは情報でも表面を愛でるだけのものではなく、何かに私たちに気付くことを促す表現であるとき、いまの日本や日本人アーティスト、作品はあまりにも漫然としすぎている。表現深度や発表の場の多様性において、台湾には、既にしてきたことや持っている反骨精神があるため、さらにエキサイティングし、ポジティブに多様化すると思われる。それが日本のアートとは大きな違いとなり、私たち日本人からは何も生まれないだろう、とも感じる。いま私は、台湾を見て日本が反省すべきであると考えるが、果たして皆さんには危機感があるだろうか。

Chisai Fujita

Chisai Fujita . 藤田千彩アートライター/アートジャーナリスト。1974年岡山県生まれ。玉川大学文学部芸術学科芸術文化専攻卒業後、某大手通信会社で社内報の編集業務を手掛ける。5年半のOL生活中に、ギャラリーや横浜トリエンナーレでアートボランティアを経験。2002年独立後、フリーランスでアートライター、編集に携わっている。これまで「ぴあ」「週刊SPA!」「美術手帖」など雑誌、「AllAbout」「artscape」などウェブサイトに、展覧会紹介、レビューやインタビューの執筆、書籍編集を行っている。2005年から「PEELER」を運営する(共同編集:野田利也)。鑑賞活動にも力を入れ、定期的にアートに関心の高い一般人と美術館やギャラリーをまわる「アート巡り」を開催している。また現代アートの現状やアートシーンを伝える・鑑賞する授業として、2011年度、2014年度、2015年度愛知県立芸術大学非常勤講師、2012年度京都精華大学非常勤講師、2016年度愛知県立芸術大学非常勤研究員、2014~ 2017年度大阪成蹊大学非常勤講師などを担当している。 写真 (C) Takuya Matsumi ≫ 他の記事

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