2017年の台湾のいま

「見る」/「見せる」の次の段階へ

In 特集記事 by Chisai Fujita 2017-12-27

2017年もあと少し。今年のアートシーンを振り返るとき、展覧会やアートイベントはいくつか思い出せても、それ以外に何があったっけ。あなたがアーティストなのか、キュレーターなのか、鑑賞者あるいはアートファンなのか、によっても違うだろう。しかし今のアートは展覧会やアートイベントだけじゃない、2年ぶりの台湾記事で紹介する。

アーティスト・イン・レジデンス

アーティスト・イン・レジデンスとは、アーティストやリサーチャーが、ある土地で滞在しながら制作・リサーチをする場である。例えば、3月に記事を書いた「京都:Re-Search」ように、日本でのアーティスト・イン・レジデンスの多くは、滞在・制作するアーティストによって、地域を変えたり、住民とアートが繋がる場として使われている。

台北國際藝術村の一角

海外でのアーティスト・イン・レジデンスは、必ずしもそうではなく、アーティストやリサーチャーの個々の目的のために開かれている。

私は今年2月の1ヵ月間、台湾にある台北國際藝術村の一室を借りて、自分の課題についてのリサーチをしていた。何かを経由しなくても、個人で応募して台北國際藝術村の審査を通過さえすれば、時期を問わず、展覧会発表などの成果物の縛りもなく、ここのレジデンスは利用できる。

台北國際藝術村内のギャラリー

だから私は個人的に申し込み、審査を経た上で滞在してリサーチを進めた。毎日この台北國際藝術村宝蔵巌の一室で寝起きをし、他の滞在アーティストの活動を知りながら、台北市内に限らず、台湾中の美術館やギャラリー、図書館を回り、いろんな人たちと会うことができた。このような自由に出入りできるアーティスト・イン・レジデンスは、日本、特に関西ではとても少ない。1ヵ月のリサーチにより、私は深く調べたいと思うことが出てきたので、その時は再び利用するだろう。しかし私のような動きをしたい外国人が日本に来る場合、もっと日本を知りたい場合、関西ではどうしたらいいのだろうか。

見せるだけじゃない場所

台湾のギャラリーやアートスペースに置かれた芳名帳を見て、私が感じるのは、日本人アーティストやキュレーターが限られた場所しか見ていないことだ。例えば、貸画廊は日本のものと言われるが、台湾にもある。欧米にありがちな、入口のカウンターが高くて、入りにくいギャラリーだって、台湾にある。

朋丁 ponding

「朋丁 pon ding」は日本人含む3人のコファウンダー(共同運営者)によって運営されているブックストア+ギャラリー+カフェである。台北駅と中山駅の中間に位置し、ちょっと尖ったコンテンポラリーアートやデザインの展覧会を見ることができる。世界的にこうした店は増えている中、「朋丁 pon ding」は台湾人クリエイターだけでなく、日本人クリエイターも紹介している。


北師美術館外観, Photos courtesy of MoNTUE北師美術館

台北の美術館といえば、台北市立美術館や台北當代藝術館に行きがちだが、台北教育大学にある北師美術館も行っておこう。以前私は日本でもしていた「L’OUVRE 9」展をここで見たが、この美術館(と大学)は、日本とゆかりが深い。先日も京都・大学ミュージアム連携とシンポジウムも開かれていた。
このように国を超えた「継続的な」交流や研究が、今の日本でどのぐらい行われているだろうか。

アートフェア

台湾はアートフェアが多い国でもある。私は今年「アート台北」は行けなかった代わりに、「アート高雄」へ行ってきた。


「アート高雄」での芦屋画廊のブース

日本からの出展ギャラリーやアーティストと話していると、作品が売れるという人もいれば、売れないという人もいた。これまでの台湾のアートシーンを「売る」「売れる」という目線で見ていれば、どういったテイストの作品が「売る」ことができるか、「売れる」作品であるか、は私でも分かる。しかし、その下調べを怠ったギャラリー、あるいは、日本テイストを押し付けている作品が、売れるはずがない。

まとめ

日本を振り返ると、相変わらず「地域との絆」や「リサーチを元に」という作品や展覧会が多く、それらは万人にシェアできる内容や、夏休みの研究発表やレポートが並んでいる。地域系イベントに出る作家とアートフェアに出す作家は異なり、キュレーターは前者と仲良さげに展覧会をつくり、アートフェアにはほとんど足を運ばないだろう。

台湾においては、かつて台湾の作品にあった「分かりやすさ」が少なくなっていているように、少しずつ変化していっている。アーティストはきちんと手を動かして、アートでしか表現できないことを追求し、キュレーターやギャラリストは、自分の理論を元に展覧会を構築している。アートフェアに出した作家であっても、美術館の展覧会で見ることができる。

私が台湾に今年3回訪れて、話した限り感じるのは、アーティストもギャラリストもキュレーターも「なぜアートなのか」「なぜ台湾なのか」を日々考えていることだ。仮に、個人や社会の問題に対して表現されたものであっても、鑑賞者の心をえぐるようなものが多い。むしろ日本で見る作品や展覧会の方が、キレイですね、すごいですね、みたいな表面的なのである。

いつまで日本人は日本が一番だと思うのだろう、これがいまの私の中で答えが出ない疑問である。その答えを見つける間に、台湾のアートシーンはどんどん発展していくに違いない。

Chisai Fujita

Chisai Fujita . 藤田千彩アートライター/アートジャーナリスト。1974年岡山県生まれ。玉川大学文学部芸術学科芸術文化専攻卒業後、某大手通信会社で社内報の編集業務を手掛ける。5年半のOL生活中に、ギャラリーや横浜トリエンナーレでアートボランティアを経験。2002年独立後、フリーランスでアートライター、編集に携わっている。これまで「ぴあ」「週刊SPA!」「美術手帖」など雑誌、「AllAbout」「artscape」などウェブサイトに、展覧会紹介、レビューやインタビューの執筆、書籍編集を行っている。2005年から「PEELER」を運営する(共同編集:野田利也)。鑑賞活動にも力を入れ、定期的にアートに関心の高い一般人と美術館やギャラリーをまわる「アート巡り」を開催している。また現代アートの現状やアートシーンを伝える・鑑賞する授業として、2011年度、2014年度、2015年度愛知県立芸術大学非常勤講師、2012年度京都精華大学非常勤講師、2016年度愛知県立芸術大学非常勤研究員、2014~ 2017年度大阪成蹊大学非常勤講師などを担当している。 写真 (C) Takuya Matsumi ≫ 他の記事

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