2018年1月の深圳市のいま

美術系大学がなくてもアートやデザインが盛り上がる町

In 特集記事 by Chisai Fujita 2018-01-18

これまで香港については、2014年2016年、そして昨年2017年と書いてきた。これら香港取材の都度、私は地下鉄でつながっている中国本土、深圳市にも足を運んできた。

深圳市について

深圳市は、中国広東省の南部にあり、香港の北部に位置する。世界有数の経済特区で、特にIT系や製造業が盛んである。私が大学を卒業した20年前、つまり1990年代後半から2000年代に掛けて、日本の製造系企業も多く会社や工場を持ち、私の周りで深圳市へ行く人たちがいたものだ(今どうなってるか知らないけど)。また、中国のLINEと呼ばれているSNS「WeChat(微信)」を始め、深圳市から生まれたものも多い。

このように深圳市は、来年2019年に設立40周年を迎える若い市であり、「私たちは香港や広州(深圳市の隣にある広東省の省都)のような歴史はない」というものの、「他の中国の都市に比べて、私たちは若い世代が多い、そして活気がある」と誰もが口にする。

しかも深圳には深圳大学ぐらいしか、大学がない。最近、香港大学が深圳市にアートの拠点を作っているとも聞くが、深圳市内に今のところ美術系の大学はない。なのに、展覧会やアートイベント、パブリックアート等を目にすることはとても多い。なぜだろうか。

海上世界文化芸術中心

昨年12月2日、海上世界駅近くに、デザイン系アートセンター「海上世界文化芸術中心」がオープンした。

他のニュースで既にご存知の方も多いだろうが、ここはイギリス・ロンドンにあるV&A美術館のアジア支店のような意味を持ち、建物は日本人建築家の槙文彦による設計である。ミュージアムショップには明和電機のグッズがあふれ、日本との繋がりも感じた。展覧会は、メディアアート系のものとポスター等のグラフィックデザイン系のものを見ることができる。

オランダのアーティスト「thonik」によるこの作品は、WeChat(先に述べた通り、中国のLINEのようなもので、深圳市で生まれたSNS)のIDを入力すると、アバターとしてこのような画像が壁にプロジェクションされるというもの。インタラクティブ性だけでなく、多様な色、体感できることといった特性を持つメディアアートは、若い人たちが多い深圳市において多く見ることができる。

深圳市におけるアートの現場

これまで深圳市内で開かれた展覧会やアートイベントには、明和電機などメディアアーティストが参加している。こうしたメディアアートを、深圳市内では展覧会だけでなくパブリックアートとしても見ることができる。

パブリックアートとしてメディアアートを取り上げるキュレーターに話を聞いたところ、持っていたスマートフォンで「これはビルにプロジェクションマッピングした作品です」といったように、これまで手掛けた作品を動画で見せてくれた。「中国国内のアーティストに限らず、世界中からアーティストは探します。その方が刺激的だし、世の中にはいろんな考え方があることが分かるから」。若さゆえの動き、流行をつかむ姿勢は、多くの深圳市民が持っている、という。

深圳市に美術館はいくつもあり、昨年春に何香凝美術館で私が見たのは、1930年代に日本へ留学した中国人画家たちを取り上げた展覧会だった。市内中心部には「OCT-LOFT」という、ギャラリーやアトリエ、デザイン事務所などが集まる大きな芸術村がある。しかし美術館やギャラリーだけの展示だけでなく、絵画や彫刻でさえも、町へ飛び出していた。上記の画像はショッピングモールでのグループ展の1作品である。

UABB(深圳のデザイン/建築/アートのビエンナーレ)

UABB(Bi-city Biennale of Urbanism / Architecture)は、2005年から始まり、2回目の2007年に今の名前になってから、深圳市内で行われてきたビエンナーレである。

デザインや建築の作品が多く並ぶビエンナーレだが、私の印象では、前回2015年の回からアート作品の展示が増えた気がする。参加作家は中国人に限らず、世界各地から、もちろん日本人作家も参加している。今見ることが出来るUABBは、写真に見える建物は、元々工場だったもの。この建物の最上階まで展示がなされ、さらに奥の建物、写真に写っていないもっと奥の建物でも作品が置かれている。しかもここは1会場にすぎず、市内5ヶ所で展示がされている。さすが中国、とにかく広い、でかい。

香港との境に近い羅湖駅近くの別会場にも行った。片道500m以上の距離に、今は使われていない駅や線路があり、屋外や施設内で展示がなされていた。広い空間に絵画が数点というものもあれば、映像作品もあったし、動きがある立体作品がうまく配置されているという空間もあった。

この会場で展示をしている作家に話を聞いたところ、深圳市には、製造業系やIT系、つまりクリエイティブ系な若い層が多く、その発想や刺激を多くの人たちが求めているので、展示を見るだけでなく、アーティストとの協働の仕事も多いそうだ。

まとめ

上記に挙げたアーティストに、「日本は落ち着いている」と言われた。他にも話を聞いた深圳市で活躍するキュレーターやアーティストたちは「日本と中国では国の仕組みが違うけれど」と断った上で、皆口々にこう言った。「何かしようとするなら、安定してちゃだめ。深圳市は、経済でも企業でも誰でも、何かを作ったり、何かを変えようとする人たちが集まっているから、アートシーンも活発。10年前と経済も社会も変わらない日本は、アートシーンは変わらないよね」と。深圳市で出会った彼らの一言は、日本に対して、私が常に不満に感じている「安定志向でいたい日本人」とも同じ意味である。おそらく何も変わらない日本が、世界から置いてけぼりになることはまもなくだろう。そしてあなたなら、この記事から何を感じ、これからのアートとどう関わっていくだろうか。

Chisai Fujita

Chisai Fujita . 藤田千彩アートライター/アートジャーナリスト。1974年岡山県生まれ。玉川大学文学部芸術学科芸術文化専攻卒業後、某大手通信会社で社内報の編集業務を手掛ける。5年半のOL生活中に、ギャラリーや横浜トリエンナーレでアートボランティアを経験。2002年独立後、フリーランスでアートライター、編集に携わっている。これまで「ぴあ」「週刊SPA!」「美術手帖」など雑誌、「AllAbout」「artscape」などウェブサイトに、展覧会紹介、レビューやインタビューの執筆、書籍編集を行っている。2005年から「PEELER」を運営する(共同編集:野田利也)。鑑賞活動にも力を入れ、定期的にアートに関心の高い一般人と美術館やギャラリーをまわる「アート巡り」を開催している。また現代アートの現状やアートシーンを伝える・鑑賞する授業として、2011年度、2014年度、2015年度愛知県立芸術大学非常勤講師、2012年度京都精華大学非常勤講師、2016年度愛知県立芸術大学非常勤研究員、2014~ 2017年度大阪成蹊大学非常勤講師などを担当している。 写真 (C) Takuya Matsumi ≫ 他の記事

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